外伝EP14 兎天原の旧支配者 その4
「俺達って、所謂、ゆるキャラってヤツだよね」
「どこがだよ。お前らはグロキャラだ! 誰も可愛いなんて思わねぇよ!」
「その言葉を聞いて久しぶりにキレちまったぜ! 屋上へ行こうぜ!」
「ま、まあ、落ち着けクー! グロいのは事実なんだし……」
「うう、否定できないのが辛い!」
へえ、兎天原にもゆるキャラという言葉が存在していね……ちょっと意外。
し、しかし、しかしッ……絶対にゆるキャラではない!
クーとハスは可愛くない……グロさ満点だ……身体がヌルヌルしているし、オマケに磯臭いし。
「しかし、抑えられぬ探求心、そして煮えたぎる乙女心を抑えるのは、ホントに難しいなぁ☆」
何が抑えられぬ探求心と煮えたぎる乙女心(?)だよ。
クーとハスが蛸人間&烏賊人間になってしまったのは、古代の兎天原にまつわる曰く付きの本を写本するという馬鹿げた行為が招いたコトだし、まさに自業自得である。
し、しかし、コイツらが元は人間の女だというコトが、どうしても信じられないんだよなぁ。
え、見た目はダサくて地味な女夢魔だけど、元男の俺も同類だって?
う、うむ、それを忘れていたぜ、チクショー!
「ところで気づいているか? 私達の方をジロジロと見つめるモノの視線に――」
「デュシス、それは本当か? 俺にはさっぱりなんだが……」
「チッ……この気配は〝奴ら〟だ! どうやら、お前らの存在を察知したようだ!」
「とにかく、逃げるよ! ついて来るんだァ!」
「お、おう!」
や、奴らッ……俺達の存在を察知した⁉
もしかしてタンタロズの同胞共のコトか――ッ!
そういえば、自分達の存在を知られるコトを殊の外、嫌う——みたいな話だったな。
「走れェェェ~~~!」
「あ、ああッ! う、うわあ、なんだ、この気配はッ!」
「コラァァァ! 館内を走ってはいけませんッッ!」
「ス、スマンッ! 今は走らねばいかんのだーッ!」
迷宮図書館の館内は、その名の通り、迷宮のように複雑に入り組んでいるし、オマケにトンでもなく広い——故に、ここで働くモノも当然、多いワケだ。
で、そんな迷宮図書館の職員に走るな――と、俺達は注意を受けるのだが、今は従っている場合ではない。
俺も逃げ出す直前に、奇妙な気配を感じ取じたコトだしね。
さてと、腑に落ちないがクーとハスの後を追いかけるカタチで走れッ!
「わ、なんだッ……ギャーッ!」
「今の声って、もしかして私達に走るなって注意してきた職員さんでは?」
「あ、ああ、そうかも……き、気になるぜ」
「サキュラ、立ち止まるな。そして振り返るな!」
「お、おう、わかったぜ、デュシス……」
さっきの職員の悲鳴が聞こえる……な、何が遭ったんだぁ?
うーん、気になるところだが、デュシスが立ち止まるな、振り向くな――と、耳許で忠告してくるワケだ。
そ、そうだな、立ち止まったり、振り返ると絶対に後悔するコトだろう……このまま迷宮図書館内をひたすら走り続けよう!
「ちょ、どこまで行くんだァ!」
「まだまだッ! 黙ってついて来るんだァーッ!」
——って、おい! いつまで走る続けなきゃいけないんだよ。
迷宮図書館は迷子になりやすい環境だっていうのに、なんだかんだと利用者が多いので、そんな利用者達とぶつかりそうになるし、オマケの床にバナナの皮を投げ捨てて帰る馬鹿野郎もいるワケで、俺は何度、危険な目に遭ったコトか――。
「よし、気配が消えた!」
「クー、一旦、アソコに見える部屋の中に駆け込もう!」
「そうだな、ハス!」
「ん、『職員休憩室』と書いてあるプレートが扉に貼ってあるな」
「今は四の五の言わず、あの部屋へ駆け込むぞ」
気配が消えた……ホントにホントかぁ⁉
ま、まあ、とりあえず、クーとハスに従って、この迷宮図書館で働く職員達の休憩室っぽい部屋の中へ身を潜めるとするか――。




