外伝EP14 兎天原の旧支配者 その3
緑色の蛸人間と黄色い烏賊人間だが、その冒涜的な姿と裏腹に両目は、神々しさを感じさせるキレイな金色なんだよなぁ。
意外だと思わないか? もっとこう姿から考えて禍々しく赤い光を放っているとか――。
と、コイツらは何者なんだろう。
さて、訊ねてみるか――。
「おい、クー! テメェのせいで俺達の姿がバレちまったじゃねぇーかよ!」
「うっせぇ! お前が油断したからじゃんかよ、ハス!」
「仲間割れを始めたぞ、おい……」
「むう、これじゃ何者かってコトが訊けんなぁ」
蛸人間はクー、烏賊人間はハスって名前らしい。
つーか、怪物コンビが殴り合いの喧嘩を始める。
うーむ、忠告者を名乗るモノ同士、仲が良いのか悪いのか、そこら辺がわからん奴らだなぁ。
「喧嘩をやめさせましょう!」
「喧嘩の仲裁か? ああ、わかっているぜ――おい、怪物共、喧嘩なんかやめろ!」
「化け物…だと…⁉ ふざけんなッ……こんな姿だが、俺は人間だ!」
「そうだ、そうだ! 化け物扱いすんなーッ!」
な、何ィ……化け物じゃない……人間だと⁉
喧嘩の仲裁に入った俺に対し、蛸人間クーと烏賊人間ハスは、ドンッ——と、真っ向から反論するのだった。
「こんな姿になっちまったのは、何もかもが〝アイツ〟のせいだッ!」
「つーか、クーも悪い! ナコニア聖堂に保管されていた〝あの本〟の封印を解いちゃったワケだし……」
「ナコニア聖堂!? ほう、それじゃお前達は、あのナコニア聖堂事件を引き起こした連中の仲間というワケだな?」
「ギョッ——ちちち、違うってばよ!」
「ア、アレは誤解だよ、誤解! 盗んだのは、あの本だけだし、オマケに持ってるのはクトゥーだよ!」
うーむ、ある意味で自業自得だな。
どんな本かは知らないけど、ソイツを盗んだおかげで、そのとばっちりを——いや、呪いを受けて結果が、クーとハスの今の姿なのかもしれない。
さて、コイツらの仲間であるクトゥーとやらが、例の本を持っているようだ。
その前に、ナコシア聖堂事件とやらを引き起こした連中の仲間のようだぞ。
「ナコシア聖堂事件ってなんだ?」
「あ、はい、数年前に起きた痛ましい殺人事件です。あ、でも、私が聞いた話では、ラーティアナ教団を狙った敵対教団のゼノビアス教団の連中の仕業だったような……」
「さ、殺人事件!? そんな物騒な事件は、どんな異世界でも起きているんだなァ……っつーか、宗教絡みなテロ事件じゃねぇ?」
「おい、俺達は殺人なんかやっちゃいねぇ!」
「あ、でも、あの本を読んで理性を保てなかった奴もチラホラいたよね。もしかして理性を無くした奴が……」
何やら物騒事がチラチラと背後に見え始めてきたぞ。
ナコシア聖堂事件の背後に見え隠れする禍々しい何かが――。
「ま、まあ、そんなコトが遭って以降、俺達は忠告者として兎天原に各地を巡り歩いているんだ」
「うんうん、仲間のクトゥーの奴のせいで拡散してしまったっぽいからね。〝あの本〟の写本が――」
「写本だと⁉ お前ら、よくあんなモノを書き写す気になったな……」
「ニャハハハ、そこら辺は神秘学に興味津々なつ乙女心を持っていたからこそ成しえた所業なのだー☆」
「つ、つーか、書き写している時、何度も何度も正気を失いそうになったよ。あのガリガリと心が削られていく感覚を味わうのは、もう勘弁だよ……」
「お、おい、乙女心って……お前ら、まさか……」
「あ、ああ、こう見えても俺は美少女なんだぜ☆」
「ま、元の姿に戻るコトができればの話だけど、一応、女子だよ」
「ななな、なんだってーッ!」
な、何ィィ……女だって⁉
ううむ、ああいうグロテスクなナマモノにも性別が存在しているのね……意外だなァ!
ああ、元々は人間で、そして女だった――故に、怪物になってしまった後も性別だけは変わらずってところかな……かな?




