外伝EP14 兎天原の旧支配者
タンタロズとオーク共との一件の後、俺——真名を忘れた夢魔のサキュラ(仮)は、ジンフリードとエティエンヌ親子やゾンビ考古学者のメリッサ、オマケのその怪奇な姿から想像もできない読書好きだという白骨屍人のヴァレリアヌスと一緒に迷宮図書館というその名の通り、内部が迷宮のように入り組んだ構造の図書館へとやって来る。
その理由は、あの不気味な空飛ぶ脳みそ野郎ことタンタロズの姿に何かしらの心当たりがある――と、ジンフリードが言うので暇潰しについて来たってワケ。
ああ、そうそう、タンタロズに関してだが、ジンフリード曰く〝現在の兎天原に居てはいけない〟生物らしい。
おいおい、それはどういう意味なんだぁ? 俺には何がなんだかさっぱりだぜ……。
「ここ凄く広いな。下手に動き回ると迷子になっちまう」
「そうですね。迷宮図書館という名称の言葉の通り、広い上、内部が複雑に入り組んでいるし、オマケに地下三階、地上十階建てですから、ややこしいコト極まりないです」
「え、マジ⁉ そんなの広いのか……」
「どうでもいいけど、エティエンヌって少年がいなくなっているぞ」
「わ、シトリー……いたのかよ!」
「居ちゃ悪いのか?」
「そ、そんなコトはないが、お前の姿って意外にも衝撃的なんだよなぁ……」
「ふむ、彼なら兎天原の歴史コーナーへ向かったぞ。私達も行ってみるか?」
「本当か、デュシス。まったく、如何にも迷子になりそうな場所だっつうのに困った奴だぜ」
「あ、ジンフリードのおじ様もいなくなっている」
「うう、あの馬鹿親子ッ……どこへ行ったんだァ!」
「アノ男ナラ、ソコノ角ヲ曲ガッタトコロニイマスヨ」
ちょ、親子そろって勝手な奴らだ。
とりあえず、ジンフリードを探してみるか――。
「ウムー、ココヘ来れば、リッチへノ道ガ開ケソウデスネ」
「リッチ? リッチな生活を送りたいのか?」
「サキュラさん、リッチとは魔術の根源、無限の知識等を求める魔道士が、自分自身に死霊魔術等の外道魔術を施し、不死者と化した存在だったかな? うん、永遠の命を求めた成れの果て——そう言っても間違いないでしょうね」
「へえ、そうなんだ。なんだか禍々しさ爆発だな、おい!」
「マア、コンナ身体ニナッテシマッタ以上、不死者ノ王トイウベキ存在ヲ目指ソウカト思イマシテネ」
むう、ヴァレリアヌスはタダでさえ禍々しい姿だというのに、今以上に禍々しいモノを目指そうというのか――。
迷宮図書館へやって来たコトで奇妙な向上心が芽生えてしまったのかも――。
「あったッ! この本だ……うむ、即、発見だ! あやつはきっとコイツらの仲間だ……いや、生き残りに間違いないィィ!」
雷鳴のようなジンフリードの叫び声が聞こえてくる。
さて、忘れちゃいけない。
ここは迷宮と冠する場所ではあるが、静かな環境を求むモノにとっては最良なる憩いの施設である図書館だ。
そんなワケだから当然、大声を張りあげるなんて言語道断だ。
なんだかんだと、迷宮を冠するが故、管内は複雑に入り組んではいるが、意外にも利用者の姿が、多々、見受けられる場所だったりするワケだ。
むう、とにかく、ジンフリードは思わず大声を張りあげたくなるようなモノを発見したのだろう。
「これだッ……無名王が書いたとされる忌まわしき超古代の兎天原の詳細を記録された唯一の書物! まさか……原本を発見してしまうとは……ななな、なんという僥倖ッ!」
「無名王? 誰だ、そりゃ……」
「父さんは忌まわしき超古代の兎天原の記録がって言っているけど、ボクにもなんのコトやら……」
「無名王とは兎天原を最初に支配したとされる伝説的な王のコトですよ。業績がある程度、残ってはいますが、何故か名前だけどがわからないという。そうそう、あの禁忌王ハビルフの祖父だという説がありますね」
「お、流石は考古学者だな、メリッサ! さて。なんだかよくわからんけど、とにかく、古代の凄い王様なんだろう? で、ソイツが作者だっつう忌まわしい歴史が刻まれた本を発見したんでジンフリードのオッサンは大声を張りあげた……ってワケだな?」
無名王ねぇ、どんな人物かは知らんけど、ソイツが記したっていう超古代の兎天原の詳細が知りたくなってきたぞ。
「父さん、その本かい? しかし、古臭い本だなぁ……」
「仕方がない。何せ、これは兎天原でつくられた最初の本の一冊なのだから――」
「じゃあ、彼是、五千年前……かな?」
「うむ、それは間違いないだろう。何せ、製本技術が確立されたのは、確か無名王の治世の頃だった筈だったと記憶している」
ご、五千年前の本だって⁉
古臭いコトは確かだけど、そんな大昔の本が現存しているだなんて迷宮図書館はスゴイところだなぁ!
オマケに埃を払った形跡があるぞ。
定期的に貯蔵されている莫大な量の本が収納されている本棚を清掃している連中もいるようだなぁ。




