外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その26
ふ、ふう、危なかった……本当に危なかった……。
うーむ、例えるなら首から下の部位を乗っ取られてしまう……みたいな悪夢を垣間見たぜ……。
たまたまクロウサヒコが気づいてナイフをぶん投げていなかったら、俺は多分、先端にピラニアのような牙の生えそろった口を備え持つ触手をうねらせる空飛ぶ脳みそ野郎ことタンタロズに、肉体を乗っ取られているところだったしねぇ。
さて、クロウサヒコが投げ放ったナイフが突き刺さったタンタロズの不気味な身体から青い血液が、ボタボタと滴り落ちている。
う、変な臭いも同時に――。
「う、磯臭い……生魚の臭いだ!」
「隊長、そんな生魚を焼いて食べたくなったッス!」
「お、イイね☆」
「おい、兎のクセの魚を食べるのかよ、おい!」
「ん、それの何が問題なんだぁ?」
「それはどうでもいいけど、アレを見ると食欲をなくしますよね……」
「あ、ああ、確かに……」
タンタロズに体液は、まるで生魚の臭いだ!
そんな臭いに反応したのだろうクロウサヒコ達が、焼き魚を食べたいと言い始まる。
どうでもいいけど、エフェポス警備隊の大半は、隊長であるクロウサヒコと同じ兎獣人なんだよなぁ……。
草食獣である兎とはいえ、獣人——故に、魚肉も食べるコトができるんだろう。
ああ、でも、そこら辺は考えるな……感じるんだ!
そう誰かが言っている気がする。
さて、空飛ぶ脳みそという真の姿を露わにしたタンタロズだが、意外にもタフな奴だ。
クロウサヒコが投げ放ったナイフが直撃し、青い血液を滴らせつつも空中を飛び回っている。
むう、ブンブンと羽根音が鬱陶しいなぁ……。
「おおおッ……おのぉれェェェ~~~! この汚らわしい兎獣人がァ! そこのダサくて地味なサキュバスの身体を乗っ取るコトに失敗してしまったではないか!」
「お、お前の姿の方が汚らわしいっつうの!」
「なんだと! この美しい姿のどこがッ……う、うがあああ、なんじゃ、こりゃーッ!」
「ちょ、溶けてるッ……空飛ぶ脳みそ野郎の身体が溶けてるゥゥ!」
「ハハハーッ! 殺虫剤の効果は抜群だなァァァ~~~!」
「さ、殺虫剤!? あのナイフの刃に殺虫剤が塗ってあったのか?」
「あの空飛ぶ脳みそ野郎は昆虫かよ!」
え、えええッ……空飛ぶタンタロズの身体が溶解し始める……う、うええ、半分くらいドロリと崩れ落ちて地面にベチャリと落下する。
うう、グロいモノを見てしまったぜ……。
「ウ、ウガアアアッ……ジュブジュブジュブ……ニョリリリィィ!」
「うっわ、凄い効果! 害虫の集合体のような奴だしな。効果抜群だな☆」
「あ、ああ、だが、殺虫剤が効くなんて信じられない。宇宙的恐怖を感じさせる姿なのに……」
「おい、見ろ! 改造オーク共が一斉にぶっ倒れたぞ!」
改造オーク共はタンタロズが脳波で操っていた——とか?
故に、奴が殺虫剤の効果でああなったせいで一斉にぶっ倒れたのかも――。
「し、死んだのか、コイツら……」
「どれどれ、私が調べてみよう」
「父さん、僕も手伝うよ」
「ちょ、お前ら……か、解剖!」
「凄い切れ味のメスを持っていますね。骨の中でも特に硬い頭蓋骨が、まるで果実でも切るかのようにスパッと……」
お、おい、ジンフリードとエティエンヌ親子! 死んだかどうか確認するのはいいけど、何故、そんな改造オーク共の一体の頭を――頭蓋骨を切り開いて脳みそを見る必要があるんだーッ!
あ、でも、キレイな脳みそをしている……い、意外だ!
「ちょっと臭いけど、キレイな色をした脳みそだな」
「あ、はい、意外ですよね、ホント……」
「ん、改造オークの脳みそをジッと見つめているけど、ゾンビは脳みそが大好物だって話があるんだが、アレは本当のコトだったんだな、メリッサ」
「な、なんですか、その話は! デタラメですってばーッ!」
「お、おい、ムキになるなよ。必死に嘘を吐いているじゃねって疑いを持っちまうぞ、俺……」
「そんなコトより、こんなモノがコイツの脳みその中に……」
「俺の親指の爪ほどのの大きさ黒くて薄い四角い物体……ICチップか、コレ!?」
コイツはICチップか⁉
そう思えるような黒くて小さな四角い物体をジンフリードが改造オークの脳みその中から摘出するのだった。
「ク、クハハハ……ソイツを知っているようだ……な……ギュルル……」
「タンタロズ、まだ生きていたのか!」
「……だが、もう……ダメだ。わしは死ぬ……口惜しいな……実に口惜しい……実験材料としてオーク共を改造し、いずれは兎天原の……支配者を気取る……人間共も……改……造しようと思っ……ていたのだ……がなぁ……グジュルルッ!」
「お、おい、まだ死ぬなッ! このICチップみたいなモノの詳細を語ってから……く、完全に溶けちまったか!」
タンタロズの野望——それは兎天原の支配者を気取る人間達をオーク共と同様に改造するコトであった。
と、その前にタンタロズの先端にピラニアのような牙を備える口が見受けられる何本もの触手を持つ翅の生えた脳みそという名状しがたき身体が、ICチップみたいな物体の詳細を語らにままグシャグシャに溶け落ちてしまうのだった。
お、おいィィ! 何か語ってから逝けよォ!




