外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その22
「お、けっこう広いじゃん!」
「はい、さっきの広場と同じくらい広いです」
「うむ、広いのはいいが、ここは暗すぎる。魔術で周囲を明るくしなくては先に進めないな」
「あの黒い兎獣人を連れ去ったモノの正体が、これでは何もわからないし、タンタロズがどこにいるかもわからないしな」
無駄に広くないか、ここ?
実験室って聞いていたから、もっと狭いのかと思っていた……意外だぜ。
タンタロズの実験室の中に足を踏み入れたのはいいが、何もかもが真っ暗闇の空間だ。
そんなワケだから、実際の広さがわからないという危険の極みである。
ああ、そうだ……魔術で周囲を明るくすればいいワケだ。
そうじゃないと、クロウサヒコを連れ去ったモノ――守護獣の正体もわからず仕舞いだしね。
「これでよし!」
「おお、光の玉がたくさん!」
「魔光球だ。これくらいお前だってつくれるだろう?」
「え、そ、それは……」
魔族の始祖のひとりを自称する無毛の猫ことシトリーが、無数の光の球体を召喚する。
魔光球——所謂、光の精霊ってヤツなんだろうけど、俺には召喚できるかどうか……。
「わ、明るくなった途端、目の前に奇妙なモノが……く、首なしオーク⁉」
「いや、ドテ腹を見てみろ!」
「あ、お腹に顔がある!」
ム、ムムム、シトリーが呼び出した光の精霊が放つ光に誘われたのか、首なしのオークが現れる――あ、ああ、確かにドテ腹に顔があるぞ。
ユ、ユニークな姿だな……。
「う、うわあああーッ!」
「あ、逃げたぞ!」
ちょ、目の前に現れた首なしオークのドテ腹に見受けられる顔が、見る見るうちに恐怖に染まっていく……お、おい、悲鳴をあげて逃げるんじゃない!
「臆病者がひとりかふたりはいてもいいのではないでしょうか?」
「う、うむ、だが逃げられたのが腑に落ちないな。とりあえず追いかけてみっか……」
ドテ腹に顔がある首なしオークを追いかけてみるか――ま、待て……もしかして俺達を罠にハメるためにわざと逃げた可能性もあるな。
うーむ、ここは慎重に追ってみるべきだな。
「お、おい、俺はここだ! 助けてくれェェェ~~~!」
「ん、クロウサヒコの声が聞こえたぞ⁉」
「隊長はあそこッス!」
「おいおい、何故、簀巻きにされているんだぁ?」
「迂闊に近寄るなよ。罠かもしれん……」
「わかってるって……う、その前に包囲されいるんじゃないか、すでに……」
「あ、ああ、人面犬……いや、オーク面犬にな……」
ひょっとして典型的な罠にはまってしまったんじゃ⁉
むう、荒縄で簀巻き状態にされたクロウサヒコを発見――が、近寄った途端、身体が犬で頭がオークという複数体のオーク面犬という化け物共に包囲されてしまっているし。
そ、そうか、クロウサヒコを連れ去ったのは、コイツらの一体というワケだな。
「く、オーク面犬は何体いるんだ!」
「多分……間違いなく二十体はいると思う」
「ダガ、ナントカナリソウデスネ。見テクダサイ。オーク面犬ノ首カラ下ハ超小型犬デスシネ」
「あ、ああ、だが、甘く見ない方がいいな」
頭は薄気味の悪い笑みを浮かべたオークではあるが、首から下はチワワなどを筆頭とした超小型犬という歪の極み——とまあ、それがオーク面犬である。
ドーベルマンやジャーマンシェパードといった超大型犬ならともかく、数は多いとはいえ、なんとか避けて通れるのではないか?
だが、油断は禁物である。
もしかすると、身体の大きい個体よりも〝身体の小さい個体〟の方が強い——という可能性も否めないワケで。
「ワオオオーン! 包囲したぞ!」
「し、しかし、この姿に改造されたせいでパワーダウンしてしまった気がしないか?」
「ううーん、それはありえるな……」
「つーか、その前に何故、俺の身体は首から下が小さな犬の身体なのだ!」
「どうでもいいが、アイツら捕まえりゃボスから褒美が貰える……忘れちゃいないだろうな?」
「おおう、もちろんさ!」
「それじゃ、やっちまおうぜ……ウオリャーッ!」
「「「アオオオオーッ!」」」
オーク面犬は双身オークや多頭オークと違って仲間意識が強いのかも――。
そんなワケで一体のオーク面犬の号令を皮切りに、他のオーク面犬が一斉に攻撃態勢に入る。
「おい、ソイツらを嚙み殺すのは、俺の役目だァァァ~~~!」
「う、うお、頭が三つあるオーク面犬キターッ!」
今度は頭が三つあるという地獄の番犬ケルベロスをモチーフに改造されたオーク面犬が現れる。
だが、そんな異形の姿であっても首から下は超小型犬である……お、おいおい、タンタロズの奴、悪趣味にもほどがある改造を施したもんだ。
「おい、割り込むんじゃねぇ! コイツらは俺達の獲物……ギャアアアッ!」
「あ、テメェ! この野郎!」
「おい、コイツからやっちまおうぜェ!」
ケルベロスオーク面犬が現れた途端、あーでもないこーでもないと口論が始まり、そして仲間割れが始まる。
やれやれ、友情、そして仲間意識ってモノを根本的に持っていないんだろうなぁ、コイツら……。
だから呆気なく仲間割れを――という感じなんだろう。
「ん、この感じは……こっちだ。オーク面犬共がモメているウチにとんずらするぞ」
「あ、ああ、わかった。ん、どこへ行くんだ!」
オーク面犬共が仲間割れをしている間に、奴らのもとから立ち去るべきだな。
オマケにシトリーが〝何か〟を感じ取ったらしい——そんなシトリーの髭が、まるで電波を受信したかのようにビンビンと蠢いているしね。
ん、もしかしてタンタロズの居場所を突き止めたのか⁉




