外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その18
「うーむ、オーク共の根城とは思えない壮麗な場所だな、ここは――」
「ここは恐らくサイトゥルヌス神殿だと思います。ほら、今いる広場の奥に壊れたサイトゥルス神の像がありますしね」
「サイトゥルヌス神殿?」
「私達がいる、ここ……現在は廃れてしまってた兎天原の土着宗教の神殿のコトです」
「へえ、それじゃ古代遺跡って言っても間違いないかな」
兎天原にも、なんだかんだと、宗教が存在しているようだ。
とはいえ、サイトゥルヌス神殿とやらをつくった連中は、今はいないのかもしれない。
メリッサ曰く、現在じゃ廃れてしまった宗教らしいしね。
ちなみに、兎天原に住む人間の七割が、ラーティアナ教という一神教の信者って聞く。
さて、今じゃ古代遺跡扱いであるサイトゥルヌス神殿をオーク共が根城として再利用しているようだ。
無論、奴らのボス——タンタロズの指示を受けてというワケなんだろう。
オークは大きな頭の割に脳みそが小さいので、誰かが入れ知恵をしない限り、こんな壮麗な神殿を根城にしよう思いコトはないだろう――と、俺は思う。
「ここです、あたし達は、ここでオーク共に襲われてしまったのよ」
「ン、ソウイエバ、私モココデ捕マッテシマッタ気ガスル」
アルシアの仲間——マーテル王国兵のお仲間、オマケにヴァレリアヌスも、今いるサイトゥルヌス神殿ことオーク共のアジト内にある広場で捕まってしまったらしい。
ん、というコトは――。
「ガハハハッ——馬鹿な奴らよ! わざわざ罠に引っかかりに来るとはな!」
「うお、鼻デカ男!」
「タンタロズだ! 鼻デカ男ではないィィ!」
「タンタロズだ、捕まえろーッ!」
「私モ手伝ウゾ!」
「つーか、私の仲間はどこなのさー!」
「お、おい、そんなコトよりも周囲を見ろ……囲まれているぜ」
「うわあ、オーク共が一体、二体……ふえええ、間違いなく三十体はいるぅ!」
グ、グワーッ……囲まれた、囲まれてしまったぞ!
薄汚れた黄色い外套を羽織った鼻の大きなオッサン——タンタロズと不愉快な仲間達ことオーク共に、俺達は囲まれてしまっている!
「ブヒヒヒ……また落とし穴に落っことすんですかい、親分?」
「さっきの奴らみたいに〝生贄〟にしちまおうぜ、親分」
「おい、コラ! 教授と呼べって何度言えば……フン、まあいいさ。どの道、死ぬんだしな」
「し、死ぬッ……だと⁉」
「ああッ……お前らは死ぬのさ! 穴底の底に溜まった溶解液によってなァァァ~~~!」
「よ、溶解液⁉ 触れたモノを溶かす液体? ああ、硫酸みたいなモノかな……」
「お、わかってるじゃないか! それじゃ早速……落っこちやがれッ!」
俺達の足許に穴底に溶解液が満たされている落とし穴がある……だと⁉
タンタロズの奴、なんて罠を――って、そんな落とし穴を開くボタンらしきモノを右手に握っている……お、おい、押すんじゃない……押すなーッ!
「グハハハーッ! ドロドロに溶けて死ねィィ!」
「う、うわあああ、嫌だァァァ~~~! 溶けて死ぬなんて勘弁してくれー!」
「隊長、俺達はミンチ肉になっちまうんですかね?」
「し、知るかーッ……あ、あれ、なんともないぞ⁉」
「お、落とし穴に落っこちたんじゃないんですかね、私達は……」
「落っこちてたら、今頃、俺達はドロドロに溶けている筈だ!」
「シ、シカシ、馬鹿デスネ。自ラ仕掛ケタ罠ニ仲間デアルオーク共ヲ落下サセテシマウナンテ……」
「人、それを自爆と言う」
「ヌ、ヌガアアッ! なんてコトダーッ! オ、オワーッ!」
ア、アルェ~⁉ 何が起きたんだ……お、俺達を取り囲んでいたオーク共の姿が、フッと突然、消え失せる。
あ、ああ、そういうコトか、わかったぞ!
タンタロズの仕掛けた罠——穴底に溶解液が溜まっている落とし穴に、本来なら俺達が落下しているところだが、なんと落っこちたのは、罠を仕掛けた張本人であるタンタロズの子分ことオーク共であった。
なるほど、それで奴らの姿が突然……う、うお、俺達の中心に円環を描くカタチで深さが大体、三メートルかそこらの穴が……落とし穴が仕掛けられていたようだ!
うう、ほんの数歩……本当に数歩、前にいたら間違いなく落っこちていただろうなぁ……。
「ウガアア……オヤビーン……オヤビ……グシュウウウ……」
「うう、溶けル……溶ケ……溶ケリュウウウウ……」
溶解液が満たされている落とし穴の底から、オーク共の断末魔の叫び声が響きわたる。
それと同時に、オーク共の身体が溶解液のよって溶ける際に発する奇妙な臭い、溶ける音が禍々しい旋律となって聞こえてくる。
「あ、タンタロズの身体が空中に浮いている!」
「むう、空中浮遊魔術を行使しているんだろう」
「でも、なんだかおかしい……あ、ああ、奴の足許を見て!」
その一方でタンタロズの奴は、空中に浮遊している――空中浮遊魔術を展開し、難を逃れたのか……いや、違う。
一見すると空中を浮遊しているように見えるが、奴の足許に注目すると、何やら奇妙なモノが見受けられる……ア、アレは!
「タンタロズめ……奴は蜘蛛なのか!」
「咄嗟に蜘蛛の巣をつくって落とし穴へと落下を防いだのだろう」
「えええ、それじゃアイツは私の同胞?」
魔術によってつくったのか? それとも蜘蛛のように口から糸を吐き出したのか――とにかく、タンタロズは巨大な蜘蛛の巣を展開し、落とし穴への落下を未然に防いだようだ。




