外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その13
一言で説明するなら、どこもかしこもグロテスクな光景が広がっている。
見張り番のオークから奪い取った鍵を使い牢屋の扉を開ける度、俺の双眸には、原形を留めていない白骨死体ばかりだしね……。
一刻も早く、ここから牢獄区画から飛び出したい気分だ。
だが、そんな中、数少ない生存者も――。
「この眼鏡の少年以外の生き残りはいないようだ」
「あ、はい、後はどこもかしこも白骨死体だらけ……」
「ア、アノォ、私ヲ蘇ラセタヨウニ、他モ……」
「そうしたいけど、水が足りないです。オマケに即席屍人作成粉もアレしか……」
「アララ、ソレハ残念デス」
「どーでもいいけど、私のコトを忘れちゃいないかぁ?」
「うわあああ、蜘蛛だッ……デカい蜘蛛、キモいィィ!」
多分、十四、五歳だろう。
大きなリュックサックを背負った眼鏡をかけて小柄な人間の少年が、俺達を除く牢獄区画の唯一の生存者である――訂正、柴犬ほどの大きさの巨大な喋る蜘蛛も牢屋の中にいたので、コイツも生存者の中に加えておかなくちゃいけないな。
「フン、余計なコトを! ボクは自力で脱出するつもりだったんだが、一応、ありがとうって言っておく」
「うっわぁ、生意気な少年ですねー!」
「う、うむ……」
「ハハハ、単に素直じゃないだけですよ、エティエンヌは――ああ、私はアリアドネと申します」
え、自力で脱出する予定だったの?
ま~たぁ、無理しちゃって……。
さて、眼鏡の少年はエティエンヌ、そして喋る大蜘蛛の名前はアリアドネという名前のようだ。
「ところで、お前らって何者?」
「多分、私ト一緒ニ捕マッタ考古学者ノ生キ残リダト思イマス」
「ああ、その通りさ。ボクは考古学者だよ。この兎天原の考古学会の未来を担うね! そんなワケだから、ボクという名の希望の星を失わずに済んだワケだ」
「希望の星ねぇ……」
「私も一応、考古学者です。仲間ですねー☆」
「え、お姉さんみたいなダサい女が、ボクと同じ考古学者だって⁉」
「うわ、ダサいって言われたー! 私はサキュラさんよりはオシャレだと思います!」
「う、お前ッ!」
「ここで口論なんてやめろ。オーク共が雪崩れ込んで来たらどうするんだ」
「「す、すみませぬ……」」
「ソンナコトヨリ、コノ先ニ階段ガアリマスガ、オーク共ト思ワレル声ガ聞コエマスネ」
「そのようだ。よし、コイツの出番だ!」
俺はオシャレに気を使っていないけど、メリッサよりはダサくないぞ!
特にスタイルじゃ負けちゃいないしな。
さて、眼鏡の少年ことエティエンヌは、少年考古学者だったのか。
しかし、物言いが生意気だな、コイツー!
さて、それはともかく、ヴァレリアヌスが上の階へと続く階段を発見する――が、オーク共の声が聞こえてくる。
よォし、さっき使い損ねた人参型爆弾が役立つ時が来たのかもしれない!
「サキュラサンデシタッケ? ソレヲ使ウ必要ハアリマセン。私ガ魔術棒ノエネルギーヲ解放シ、コノ先ニイルオーク共ヲブッ飛バシマス」
「お、おお、そうか。じゃあ、頼むぜ」
「了解デス。ソレデハ……ダーッ!」
え、ヴァレリアヌスが階段をのぼった先にいるオーク共をぶっ飛ばすと言い出す……ん、魔術棒の先端に取りつけられている赤い宝石が、一瞬だけど、キランと光ったぞ?
まあいいか、とりあえず、任せてみるとするか――。
恨みを晴らす絶好の機会かもしれないな。
『おい、下が騒がしいズラ!』
『さっきボスが捕らえた連中が逃げ出したんじゃないのかぁ?』
『そういや、下から大きな音が聞こえてきたどー!」
『なんだとー! もし本当なら俺達はボスにフルボッコにされちまうだァ!』
『それはいかん! 見に行こうぜ、野郎共!』
ムムム、オーク共の声が聞こえてくる……う、駆け降りてくる音も聞こえてくる!
俺達が閉じ込められていたゴミ捨て場兼死体置き場から脱走したコトがバレたか⁉
まあ、当然だろう。
何せ、ゴミ捨て場兼死体置き場の扉を爆砕したワケだし、あの時に生じた轟音、それに伴って発生した一時的な激震が発生したワケだ。
アレは眠っているモノも即座に飛び起きるレベルだ――オーク共も然りだな。
「ン~……ソロソロデスカネ」
『ギャアアアアーッ!』
「う、うわ、悲鳴だ! オーク共の悲鳴……なのか⁉」
「転移冷凍波ヲ放チマシタ。故ニ、連中ハ今頃、カチンコチンニ凍リツイテイル筈デス」
「氷の攻撃魔術を奴らがいる上の階に転移させたってコト?」
「イエース! ソノ通りデス」
お、おお、対象物——オーク共がいる場所に、発動させた氷の攻撃魔術の奔流を転移させた!?
そんなワケんだから、ヴァレリアヌスの魔術の腕前は一級品だな。
むう、タダ者じゃないな、コイツ!




