外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その11
「アレを使う時が来たな」
「ア、アレ?」
さて、俺が今いる場所――ドリルルの森に巣食うオーク共の根城内にあるゴミ捨て場兼奴らのボスである人間——指名手配犯タンタロズを捕えようとしたが返り討ちに遭ってしまったモノ達の死体も放り込まれているっぽい禍々しい場所からの脱出方法を考える俺に対し、デュシスがアレを使えって言うが、一体、なんのコトだか、さっぱりである。
「忘れっぽい奴だな。クロウサヒコから預かったモノがあるだろう?」
「あ、ああ、思い出した。人参型爆弾だっけ?」
「うむ、思い出したのなら、ソイツを使って扉を吹っ飛ばせばいい」
「ちょ、吹っ飛ばせと言われても真っ暗闇で何も見えないぞ!」
お、おお、忘れるところだったぜ。
クロウサヒコから人参型の爆弾を預かったコトを――。
だが、真っ暗闇で何も見えない場所で導火線に火をつけるなんて無理である。
懐中電灯のような携帯できる照明機器が欲しいところだぜ、まったく……。
「この部屋を明るくすればいいんですね? それなら、私にお任せを……えいッ!」
「おお、それは光の玉⁉」
「光の精霊を召喚してみました……う、うわ、蠅の集ったゴミ袋がいっぱい!」
「それだけじゃねぇぞ! は、白骨死体が、あっちこっちに……オ、オエッ!」
ん、メリッサが光の精霊を召喚した⁉
野球の硬球ほどの大きさの空飛ぶ球体が、そんな光の精霊なのか——。
だが、光の精霊を召喚おかげで、俺とメリッサ、それにデュシスが今いる場所の光景が明るみとなるのだった。
うう、思わず目を覆いたくなるような禍々しい光景だッ!
蠅の集った悪臭を放つゴミ袋のコトはどうでもいいッ……白骨死体だ!
原形を留めているモノも一部、見受けられるが、その大体が、どの人体のどの部位を形成していた骨だったのか、それがまったくわからないほど損壊した状態の無残な白骨死体が、俺の足許に無造作に転がっている!
どれもこれも、あのタンタロズを捕えようと目論み返り討ちに遭ってしまったモノ達の成れの果てである。
「あ、その人参型爆弾を使わずに、ここから出る方法を思いつきました!」
「うむ、もしかすると、私も同じコトを思いついたかもしれん」
「ちょ、何を思いついたんだぁ?」
「あ、はい、それじゃありていに説明しますね。〝ここにあるモノ〟を使う方法です」
「こ、ここにあるモノ?」
「わからんのか、サキュラ。まったく鈍い奴だな。ほら、足許を見てみるんだ」
「足許を見ろって? う、もしかして、白骨死体を利用しようってか?」
「そうです。ここには大量の白骨死体があります。故に、死霊魔術を使って白骨屍人をつくりましょう、サキュラさん!」
うへぇ、なんというおぞましいコトを思いつくんだ……。
だけど、なんだかんだと危なっかしい人参型爆弾を使うコトなくここから出られるのならやむを得ないか……。
「白骨屍人って動く白骨死体でいいのか?」
「そのまんまですよ。わかりませんかー?」
「あ、ああ、そうだな……って、死霊魔術なんて、どうやって使うんだよ!」
「ううむ、私は使えないな。残念ながら……」
「右に同じく……あ、ですが、コレを使います。私は死霊魔術を使えませんけど、死霊魔術師が作成した即席屍人作成粉があれば、多分、上手くいくと思います」
「おお、それはお前の主であるキョウが作ったモノだな? だが、ソレを使うとなると、ある程度の水が必要なのでは……」
何ィ、メリッサもデュシスも死霊魔術を使えないって⁉
だけど、死霊魔術師がつくったモノ――即席屍人作成粉を所持しているっぽいな。
即席ねぇ、まるでカップ麺をつくるかの如く手軽に白骨屍人をつくれるのかな……。
ま、まあ、それさえあれば、白骨屍人をつくれるようだが、どのくらいの量かはわからないけど、とにかく〝水〟を必要とするモノらしい。
だ、だが、水なんてどこに――。
「あ、水溜まり発見!」
「うむ、天井から滴り落ちた水が、床のくぼみに溜まっているようだ」
「だけど、わずかに掬える程度だぞ」
「問題ありません。ジャーン……愛用のスプーンをポシェットの中に常に入れています☆」
「お、おお、それなら問題がないな」
お、天井から滴り落ちた水が溜まる床のくぼみを発見!
が、くぼみの大きさは、俺の拳と同じくらいだし、オマケにそれほど深くくぼんでいるワケではないんだよなぁ。
だけど、メリッサ曰く、愛用のスプーンが首からぶら提げているポシェットの中に入っているそうだ。
うん、なら水をたっぷりとはいかないけど、掬うコトができるな。
「よし、それじゃ即席屍人作成粉を……ま、これくらいですかね」
「水溜まりが紫色に……」
「キレイな色じゃないですかぁ☆ さ、スプーンで即席屍人作成粉を混ぜた水を掬って、原形を留めている白骨死体にぶっかけてみます」
水溜まりに溜まった水が、即席屍人作成粉を混ぜ込んだせいで紫色に変色する……だ、だけど、無臭だな。
ふう、タダでさえトンでもなく臭い場所なのに、それに加わるカタチで、さらなる悪臭が漂うなんて事態だけは免れたワケだ。
さ、それはともかく、メリッサは愛用のスプーンを水溜まりに突っ込み紫色に変色した水を掬うと、原形を留めている数体の白骨死体――頭蓋骨の額に垂らすのだった。




