外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その8
標高五千メートルを超える高山に囲まれたトンでもなく広大な盆地——とまあ、それが兎天原なんだとか。
しかし、どこの誰が観測したのやら――。
ああ、そういえば、大昔に高度な文明社会が存在したってウワサを聞いんだが、多分、その時にってところだろうな。
さて、俺——夢魔のサキュラがいるエフェポスの村があるのは、通称、獣の領域と呼ばれている兎天原の東方である。
故に、エフェポスの村は、言葉を有する獣、そして獣の上位種である獣人が大半を占める地域にある村ってワケ。
ああ、でも、数は少ないけど、人間も住んでいるようだ。
ついでに、俺と同じ魔族の同胞も――。
それはともかく、エフェポスの村の住人達を捕食の対象としている悪鬼共――オーク共の根城の場所が判明したワケだ。
ドリルルの森——エフェポスの村のすぐ側にあるらしい地面から生えたタケノコを連想させる岩石が、あっちこっちに見受けられるという奇妙な場所に、奴らの根城があるようだ。
余談は、ここまでにしていこう。
「オ……オオオオ、俺様ヲドウスル気ダ……オゴゴゴ……」
「まだ喋る余裕があるとはな。なんてしぶとい奴だ」
「でも、逃げる余裕はないッスね」
「ああ、サキュラが生体エナジーを余分に吸い取ったおかげだな」
「俺は余分に吸い取った覚えはないッつうか、その実感がないんだよなぁ……」
俺達が捕らえたオーク野郎ことアザノウは、今は砂漠で野垂れ死にしたモノのようにカラカラに干からびたミイラのような状態だが、その状態でもペチャクチャと喋るコトができるワケだ。
それを考えると、奴の回復力は予想以上に早そうだ。
まったく、なんという生命力ッ!
「よォし、牢屋にコイツをぶち込んでおけ!」
「了解ッス!」
「それじゃドリルルの森へ往くぞ!」
「隊長、待ってくださいッス! あそこへ一緒に往く協力者を探した方がイイと思うッス!」
アザノウを牢屋にぶち込んでおいたし、早速、ドリルルの森へ――と、クロウサヒコは意気込むのだけど、
なんだかんだと、あそこへ一緒に往く協力者が必要だと俺も思う。
何せ、エフェポス警備隊の隊員は、一応、人間と大差のない大きさ、そして姿をしている夢魔の俺を除くと皆、兎や猫、小型犬といった小さな獣人ばかりだし、それなら数で勝負——と、洒落込みたいところだしね。
「あのぉ、私で良ければ協力させてください!」
「ん、お前はキョウの使い魔のゾンビじゃん」
「ゾンビじゃないです、メリッサですー!」
「あ、ああ、そうだっけ? とにかく、エフェポス警備隊の屯所に何をしに来たんだ?」
「あ、はい、頼まれていたモノが修復できたので……って、聞きましたよ。皆さんがドリルルの森へ往くって! そんなワケで私もご一緒させてください。あの森で、この間、大事なモノを落としてしまったんです!」
え、ゾンビ⁉
ゾンビといえば、映画等で超がつくほど有名な何かしらの要因で動き出した死体が怪物化した存在だったな。
うーむ、信じられん。
見た目は青と白のチェック柄のワンピースの上から、ベージュ色のカーディガンを羽織る瓶底のような分厚い眼鏡をかけた小柄な人間の女のコなんだけど、まさか生ける屍ことゾンビだなんて――。
「死臭はしないな……」
「ちょ、私は特別なゾンビなのです。臭くなんかありませーん!」
ゾンビだったら常時、死臭を漂わせていたりするんだろうなぁ――と、思ったけど、それはないな。
タダ、メリッサの地肌は、血の気が失せたように色白なんだよなぁ。
「ま、それはともかく、何をドリルルの森の中で落としたんだ?」
「あ、はい、手帳です」
「手帳?」
「タダの手帳じゃありません。この私が独自に調べあげたウサルカ文明についての未だ解明されていない物事、そして判明した物事が、これでもかーッ! という感じで記してある大事な……大事な大事な……超大事な手帳なんです!」
「は、はあ、そうなのか……って、お前、考古学者だったりする?」
「はい、考古学者です☆」
ウサルカ文明?
兎天原に於ける古代文明ってヤツか⁉
うーむ、それはそれで気になる一方で意外なのは、不死身の怪物であるゾンビ(?)でありながら、メリッサが考古学者だってコトだ。
「さあ、行きましょう、皆さん!」
「おい、待てよ。つーか、屯所の出口は、そっちじゃないぞ」
「どうでもいいけど、アイツを一緒に連れていって大丈夫なのかぁ?」
「それは私に訊かれても困る。まあ、役には立つんじゃないか?」
コイツ、役に立つのか?
まあ、とりあえず、ドリルルの森へ行くとするか――あ、でも、もう少し、期待できるモノを連れて行きたかったなぁ。




