外伝EP13 サキュバスに転生したんですけど、何か問題でも? その6
アザノウと名乗るオークは、オーク族の誇り高き戦士であると名乗った。
へえ、一見すると——いや、間違いなく野蛮で醜悪な種族であるコトが見て取れるオークにも、なんだかんだと、種族としての誇りってモノがあるようだな。
意外だなぁ……ちょっとだけ感心したぞ。
「ククク、食料共ォォォ~~~! テメェらの命運は尽きた! それは俺様の胃袋の中に入る運命だからだァァァ~~~!」
う、さっきの言葉は撤回!
下品で醜悪な三日月のように歪んだ笑みが浮かぶ奴の口からは、ジュルジュルと涎が絶え間なく滴っているしな。
「誰が食料だ! ウオリャーぶち殺してやるーッ……グギャアッ!」
「ああ、クロウサヒコォ!」
エフェポスの村を守護するモノ達——エフェポス警備隊の隊長というコトで先陣を切るをカタチでアザノウと名乗るオークに対し、クロウサヒコは気合の雄叫びを張りあげながら、突撃するのだったが、アザノウがストレートに打ち放ってきた右拳の一撃の前に呆気なく返り討ちに遭ってしまうのだった。
体格の差がモノを言う結末になってしまったのか――。
獣人族に於いては最弱最小の部類に入る気がする兎獣人では、筋骨隆々で大柄なオークと相対するには、力不足だったのだろう。
「ううう、よくも隊長を殺しやがったな!」
「俺はまだ死んじゃいねぇ……うう、だが、もう動けん……って、お前ら逃げるなーッ!」
クロウサヒコは意外と元気そうだぞ――が、受けたダメージが大きいせいか全身が麻痺して動けない様子である。
で、そんなクロウサヒコの状態を見て恐慌に陥ったアカウサヒコを筆頭としたエフェポス警備隊の隊員達が一目散に逃げ出してしまう……ちょ、仲間のカタキを討つんじゃなかったのか!
「グヒヒヒ、逃げ出すとは情けない奴らよ! さて、残るはテメェらだけだぜェェェ~~~!」
「わ、わわわ——ッ!」
エフェポス警備隊の隊員で残ったのは、隊長であるクロウサヒコ、そして俺とデュシスだけである。
ああ、アザノウがニタァと三日月のように歪んだ笑みを浮かべながら近づいてくる!
ム、ムム、戦うor逃走――そんな二者選択を択ばずにはいられない状況に陥ってしまったぞ。
「……よし、サキュラ。アイツをぶん殴ってみるんだ。多分、面白いコトが起きる筈だ」
「え、えええ、殴れって⁉ それに面白いコトが起きる……ワ、ワケがわからん……」
「グヒヒハハハッ! 俺様を殴るだって? イイぜ、イイぜ! ほ~ら、殴れや、殴れ、イヒヒヒッ☆」
「ム、ムム、馬鹿にしやがって! じゃあ、本当にぶん殴ってやる……ウリャーッ!」
俺はアザノウを殴るコトで面白いコトが起きるって⁉
そうデュシスが言うけど、何がナンだかさっぱりなんだが――。
だけど、思わずイラッとしたので、デュシスの言う通り、俺はアザノウのドテ腹に向けて右拳を叩き込むのだった。
「デュフフフ、なんだぁ、そのヘロヘロした拳は? そんな拳で俺様を倒そうと思ったのかぁ!」
「う、うっせぇ! とにかく、イライラするッ……殴りまくってやる!」
「全然、痛くなァァァ~~~い! くすぐったいだけだァァァ~~~……あ、あうッ……オゴォォーッ!」
「あ、あれ? オーク野郎の身体が萎み始めたぞ⁉」
ヘロヘロした弱々しい拳で悪かったな!
だけど、〝効果あり〟だ。
アザノウとかいうオーク野郎の筋骨隆々の逞しい身体が、シュワシュワと萎み始めたワケだし……で、でも、何故⁉
「お、おい、いきなり、どうしたんだ、アイツ!」
「生命力吸引だ」
「生命力吸引⁉」
「うむ、魔族の——夢魔が得意とする固有の対人技のひとつだな。その名の通り、触れたモノの生命力を吸収し、自らの力に変換するといった感じだろうか?」
「ほ、ほええ、そんな能力が俺の意思に関係なく発動したってところか……」
「さて、あのオーク野郎を見ろ」
「う、ガリガリに萎んで、まるでミイラ化したかのような状態に……あ、あれじゃ再起不能だろうなぁ」
「お前、生命力以外も大量に吸収しすぎたんじゃないのか?」
「そ、そうかもな……」
生命力吸引⁉
なんだか禍々しい感じがする魔族——夢魔固有の対人技だな。
まあ、そのおかげで如何にも頑強そうな体躯を誇るアザノウを全身の水分を失ったミイラと化したモノのような状態という再起不能に追い込めたワケだ。
「しかし、吸収する量が半端ないなぁ……」
「人間だったら死んでいるレベルだと思う」
「アカウサヒコ、テメェ、いつの間に戻ってきたんだァァァ~~~!」
「あ、はい……も、もう戻っても大丈夫かなぁと思いまして……」
「それはともかく、クロウサヒコ。目撃されたオークはアイツだけなのか?」
「え、ええ、そうです、デュシス様。だけど、オークは一匹いれば百匹いるって言いますからね。きっと、近くの根城があるんじゃないかと……」
え、人間だった場合、死んでいるレベルの生命力を吸収したのか、俺⁉
うーむ、そんな実感はないんだがなぁ……。
さて、俺が生命力を吸収するコトで再起不能に追い込んだオークことアザノウは、一匹いれば百匹いるゴキブリのような存在であるオークの〝ひとり〟にしかすぎないのかも――。
故に、俺の目の前に広がる深い森の中には、もしかすると、奴らの根城があるのかもしれない。




