外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その25
「これでよし……」
「う、ゴムのボールが金属化させたのか⁉」
マリエルはキョウから受け取ったゴムのボールに対し、自身の魔力を注ぎ込む——む、一瞬だけど、ゴムのボールが光ったぞ⁉
金属化したのか? 雲ひとつない青空で燦々と輝く太陽の光をキランと反射しているし、間違いないとは思う。
「で、これをどうやって投げればいいんだっけ?」
「ちょ、おまっ……投げ方がわからないのかよ!」
な、なにィィ! おいおい、投げ方がわからないだってーッ!
おいおい、野球やソフトボールの試合を見たコトがないのかよ……って、兎天原には存在しない球技なんだろうなぁ。
やれやれ、一から投げ方を指導しなくちゃいけないのか……。
「とりあえず、金属化させたゴムボールを利き手に握って……そして、勢いよく上に振りあげて……うわっ!」
「核の奴、再び電撃を放ってきたわ!」
「アガガガ——ッ!」
「由太郎に電撃が直撃した!」
「ダダダ、大丈夫……ワワワ、ワズカニ触レタダケナンダナ……」
うう、油断したーッ!
邪神雪像の核が放ってきた電流に触れてしまった、俺!
回避したつもりだったんだけどなぁ……電撃の速度、侮り難し……。
「わ、落としちゃった!」
「ア、アガガガッ……落トスナヨ……」
「エヘヘ☆」
「エヘヘ……ジャネェ!」
「うーん、落としちゃったし……蹴飛ばせばいいかな? ウリャーッ!」
俺が邪神雪像の核が放った電撃を食らってビリビリと全身が痺れてしまう様を見て驚いたマリエルは、ゴトンッ——と、自身の魔力を介し、鋼の如き硬度に変えたゴムボールを地面に落っことしてしまうのだった。
だが、地面に落してしまったので邪神雪像の核を目掛けて蹴飛ばせばいい——とまあ、そう言い出すにだけど、鋼の如き硬度に変えた時点でゴムボールは、当然、硬質化し、オマケに重量も……え、スパーンと軽々と蹴飛ばせた!?
硬度はともかく、重量はテニスボールや野球の硬球サイズのゴムボールのままなのかーッ⁉
「おいおい、足は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。アレは柔らかかったし☆」
「え、鋼の如き硬度に変えたんじゃ?」
「あ~……それはいいのよ。ま、とにかく、私が蹴飛ばしたゴムボールが邪神雪像の核に当たったわよ!」
「お、おお……突き刺さっているな!」
「ウ、ウゲッ……み、見ろよ。ダラダラと血のような液体が流れ出しているぞ」
え、直撃ィ⁉
バキィ――と、マリエルが蹴飛ばした鋼の如き硬度に変えたゴムボールが、邪神雪像の核に突き刺さるかの如くめり込んでいる!
うーむ、アレは血液なんだろうか?
ドロドロとした真紅の液体が、ゴムボールがめり込んだ場所からドプッドプッと激しく吹き出しているんだが――。
「グ、グワーッ! 身体が凍る……凍る……あれれ?」
「ム、ムムッ! カチンコチンに凍りついていた兄上が元に戻った⁉ く、ならば——ッ!」
「ウ、ウギャアアアアッ! 何をするんだーッ……あうあうあう……ガギゴキガ……」
「おいおい、また凍らすのかよ」
「まあね。今度はお仕置きよ、お仕置き☆」
邪神雪像の核がダメージを受けたせいなのか⁉
カチンコチンに凍りついていたマーデルの身体が、あっと言う間に元通りに――あ、でも、今度はマリエルが氷の魔術で、そんなマーデルを再びカチンコチンに凍らせてしまうのだった。
「今なら容易に破壊できそうね」
「放っておくと、また電撃を放ってくるかもね」
「よォし、それじゃ……思い立ったら即、行動ね!」
「え、えええ、もしかして……オ、オゲーッ!」
「合体……魔法少女アイロディーテ参上!」
まあ、今なら——容易とはまではいかないけど、邪神雪像の核を破壊できそうだ。
オマケに早々と破壊しないと、再び電撃を放ってくる可能性があるな。
なんだかんだと、邪神雪像の核のあっちこっちに見受けられる血管のような筋は、ビクンビクンと蠢いているし、再起不能というワケじゃないしね。
それはともかく、アフロディーテが再び愛梨の口の中に潜り込む……うう、見ているだけで、こっちまで苦しくなりそうな合体プロセスだなぁ。
「え、金髪碧眼の美女⁉ さっきとは違うぞ!」
「アレはアスタルテも一緒に合体したコトで起きた予期せぬ合体だったワケよ」
「ま、まあ、とにかく、やっちゃいましょう!」
「ええ、早速、決着をつけるわ……白鳥脚ーッ!」
「ちょ、家鴨脚の間違いじゃない? アフロディーテさんはアヒルだし……」
「う、うっさいわね! まあ、とにかく、パカーンッ——と、真っ二つになったからいいかぁ☆」
愛梨とアフロディーテの合体だからアイロディーテなのね。
でも、魔法少女って年齢じゃないんだよなぁ、外見なんかは――。
オマケに、愛梨とアフロディーテの人格が、それぞれ独立した状態なので、なんだかんだと、一人二役を演じるお笑い芸人のようだ。
さて、白鳥脚……家鴨脚?
で、見た感じは、両足を揃えた状態で足の裏を対象にぶち当てる蹴り技のひとつであるドロップキックだ――お、お見事、クリーンヒット!
その刹那、パカーンッ——と、乾いた音を響かせるながら、邪神雪像の核は、真っ赤な血のような液体を噴水のような巻きあげ、真っ二つにカチ割れるのだった。




