外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その23
取り込んでいたマーデルを引きずり出してしまったが故の暴走なんだろうか⁉
真っ黒だった巨体が真っ白くなったとはいえ、その形状は――いや、形状そのモノが定まらぬ不定形。
邪神雪像は、今や巨大な氷のアメーバ——スライムといったところだろう。
さてさて、コイツを倒すのが、さらに面倒くさくなったぜ。
ほら、動けるようにもなったっぽいし――。
「う、動き出した……邪神雪像が動き出した!」
「不定形になったパワーアップしたのかも⁉」
「マーデルの野郎を引きずり出したせいだぞ、由太郎!」
「ちょ、おまっ……ム、ムム、どうする⁉」
「苦戦しているようね。ここは私に任せて欲しい!」
「アンタだけに任せてはおけないわね。よし、協力しよう」
ん、不定形となり、動けるようになったパワーアップしたっぽい邪神雪像に対し、アフロディーテとアスタルテのアヒルコンビが立ち向かっていく!
何か策があるのか⁉
とりあえず、任せてみるとするか――って、いたのかよ。
いるのに気がつかなかったぜ。
「さァて、あの不定形な雪の塊を倒すなら、やっぱり熱で溶かすっきゃない?」
「そうでしょう? 単純じゃん!」
「だよね。んじゃ、召喚……えいっ!」
「わ、わああ、寒いッ……寒い! えええ、ここはエフェポスの村⁉」
まあ、邪悪な意思の有無の実体は雪の塊である。
故に、当然、熱は有効だろうけど、上手く溶かすコトができるかどうか——。
それはさておき、アフロディーテは十四、五歳だろうか?
そんなお年頃の冴えない小柄な眼鏡の人間の女のコを召喚する。
「愛梨、もしかして兎天原の南方にいた?」
「う、うん、オサルタって古代遺跡の発掘を手伝ってたんだけど……」
「フーン、そうなんだ。ああ、アイツらと一緒にかな?」
「うん、一応、お仲間だしね……って、なんで私をここに呼んだワケ?」
「そりゃ、簡単よ……合体するためじゃん☆」
「が、合体⁉」
「そう、合体よ……とまあ、こんな風に!」
「う、うわああ、オゴゴゴーッ!」
「よォし、私も合体しちゃう?」
「ウ、ウゲェーッ!」
「なッ……合体というのは、あの冴えない女のコの口の中にアフロディーテが潜り込むことなのか⁉」
「ふえ、アスタルテまで!」
え、合体⁉
アフロディーテが言う合体のプロセスは、愛梨ってコの口の中に入るコトなのか!?
つーか、アスタルテまで愛梨の口の中に入り込んだぞ……し、しかし、なんという苦しそうな合体なんだ!
あ、ああ、口の中に入った途端、アフロディーテとアスタルテの身体は小さくなるんだろう……多分?
「お、おい、どうでもいいけど、お前ら早くそこから逃げろ!」
「無理ィィ! 合体中は動けな……モギャー!」
合体するコトで、どんな姿になるのやら――。
さてさて、アフロディーテとアスタルテが口の中に潜り込むという奇妙な合体を行っている最中は動けないそうだ。
で、その隙を突くように邪神雪像の禍々しい触手で愛梨に襲いかかるのだった。
「ゴフェグフェファ!」
「邪神雪像が何か言っているぞ」
「何が合体だ。そんなコトをしても、この俺様に敵う筈がないだろう――と、言っているのです」
「え、えええ、デメテルさん……わ、わかるの?」
「はい、わかりますとも☆」
「俺には何がなんだか……お、なんだかんだと、愛梨ってコは無事のようだ。でも、あの如何にも冴えない愛梨ってコが赤い髪の美女に変貌を遂げている⁉ あれが〝合体〟なのか……」
長身でスタイル抜群の赤い髪の美女——とまあ、一言で説明するなら、そんな感じだろうか?
アフロディーテとアスタルテと合体した今の愛梨の姿は――。
うーむ、まるで無骨な蛹から孵った美しく気高い蝶のようだ!
「わ、いつもと違う!」
「うむ、アスタルテの要素も加わったからよ。そこら辺は仕方がないわね」
「悪かったわね! でも、イイ~~~感じの合体は仕上がったじゃん☆」
「え、そう?」
「うーん、とりあえず、アイロディーテ……いや、魔法少女アイロディルテと名乗っておこうかしらね」
「その名前に特に問題はないわ。さ、アイツを溶かしちゃおう……ウリャーッ!!」
魔法少女アイロディルテ⁉
愛梨、アフロディーテ、アスタルテ——ひとりと二羽の名前を組み合わせたって感じの合体後の名前だな。
とはいえ、魔法少女と言っていいものか……外見年齢が、愛梨の年齢に十歳ほど上乗せされて二十五歳前後に見えるワケだしねぇ。
「気のせいかな? 人格がころころと入れ替わってない?」
「見てわからないか? 愛梨、アフロディーテ、アスタルテの人格が、それぞれ独立したカタチで存在しているからだろう」
むう、所謂、多重人格ってヤツだな。
だが、俺には一人三役を演じるお笑い芸人のも見えるんだよなぁ。
おっと、それはともかく、アイロディルテを再び触手で薙ぎ払おうとした邪神雪像のそんな触手が、ジュッ——と、一瞬で溶解する様を俺は見るのだった。




