外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その16
単に気づいていないだけなのか?
それとも気づいていないフリをしているのか?
とにかく、マーデルは間近に実の妹であるマリエル、それにホッキョクグマの俺——由太郎に対し、雑談とばかりにペチャクチャと話しかけてくるのだった。
「さて、一日一善を心掛ける善人として大親友のバリスを助けようと思う!」
「え、助けるって⁉」
「ああ、僕は正義の味方でもあるからね!」
「せ、正義の味方って、おいおい……」
うわ、メチャクチャなコトを言い出したぞ、マーデルの奴!
つーか、正義の味方って、なんだよ、おい……。
「へえ、助けるんですか? やめた方がいいですよ」
「え、何故だい?」
「だって、アナタも〝同じ目〟に遭うのだから——」
「同じ目に遭う…だと…⁉ グ、グワーッ!」
お、おお、マーデルの両足が凍り始める。
バリスと同じく氷漬け状態にする気なのかも。
「な、何をするんだ、貴様ァァ! ゆゆゆ、許さないぞ、絶対にィィ!」
この期に及んで、まだ気づかないとはねぇ……。
自身の両足を凍らせたモノが、実の妹であるマリエルだってコトにいい加減、気づけよ!
「アウグエゴエェ……首まで凍ってしまった……」
「フフフ、油断しすぎですよ。兄さん……」
「兄さん…だと…⁉ う、うおおお、お前はマリエルじゃないかァァァ~~~!」
よ、ようやく気づいたようだな。
だが、気づいた時には、もう遅い。
マーデルの身体は、首から下がカチンコチンに凍りついた状態と化しているのだから――。
「さて、兄上……ククク、アナタを晒し者にして差しあげましょう」
「な、なんだってー! ききき、貴様ッ……正義の味方であるボクに対し、こんなコトをしたら、どうなるかわかっているのかーッ!」
「そんなコトは関係ありません。さて、復讐と洒落込みますか……」
「んんんッ……許さん……絶対に許さないぞ! この悪魔めッ……ボクをナメるとどうなるか、それを教えてやるゥゥゥ~~~!」
首から下をカチンコチンの氷漬けにされたマーデルだけど、そんな状態でも、どことなく余裕があるように見える。
杞憂だろうか……コイツ、何かを起こしそうだ!
「ふんぐるい、むぐるうふな……」
「ん、コイツ! 呪文のような言葉をッ……う、うわ、マーデルの足許に真っ黒な巨大な雪だるまがァァァ~~~!」
「兄上、何をッ!」
「ワハハハァーッ! どうだ、正義の魔術……邪神雪像をつくる呪文だ! え、あれれ、なんか変だぞ? お、おい、何故、僕を取り込むんだァーッ!」
邪神雪像をつくる呪文…だと…⁉ おいおい、どこが正義の魔術なんだよ。
矛盾しちゃいないかぁ?
それはともかく、マーデルの奴、邪悪な意思が宿る雪像をつくって、ソイツに俺達を襲わせようという魂胆なのかも――が、しかし、足許に出現させた真っ黒な雪像の中に、首から下がカチンコチンの氷漬け状態のマーデルの身体が取り込まれていく。
この場合、自爆って言っても間違いないよな?
「ふ、ふえええッ……何故だ! 何故、こうなるんだァァァ~~~! フ、フグギュッ……」
「あの真っ黒な雪だるまの奴、兄上を完全に取り込んだな」
「ハハ、こりゃ天罰って感じだネ☆」
「そんなコトより、アレを見ろ!」
「黒い雪だるまが動き始めたッス!」
「おいおい、動き出すと同時に、周りにいる連中も取り込み始めたぞ!」
真っ黒な雪だるま——邪神雪像は、マーデルの奴をその真っ黒な雪の身体の中に取り込んだだけじゃ飽き足らず周りにいる野次馬達も取り込み始める。
いや、訂正、取り込んだのでは飲み込んだって言った方が正しい筈だ。
ホントに一瞬だけど、邪神雪像の真っ黒な雪の身体が、パカンッ——と、真っ赤に血塗られた禍々しい口が開くかのように観音開きになり、間近にいた兎獣人を飲み込むところを見てしまってワケだしね……。
「オオオオオッ……オマエラッ……」
「うお、喋ったぞ、コイツ!」
「意思を持ってるッスね!」
「オレサマ……オマエラ……マルカジリィィ……ウガアアアッ!」
「うわああ、俺なんか食べても美味くないぞ!」
「右に同じくッスゥゥゥ~~~!」
む、邪神雪像が喋り始める。
んで、標的——食べる相手をハニエルとヤスに定めるのだった。
そういえば、さっき飲み込んだのは、ハニエルとヤスと同じ兎獣人だったな。
そんなワケで兎獣人は美味い!
それで味を占めたか⁉
「ギュルルバアアアッ!」
「う、うおお、鉤爪のついた触手のようなモノが……当たるかよ!」
「おお、残像⁉ 兄貴、上手い具合に回避できたみたいッスね! じゃあ、俺も……ウリャー!」
邪神雪像の頭から、先端に鋭い鉤爪がついたヌラヌラした触手が飛び出し、ハニエルとヤスを捕食しようと襲いかかるのだが、なんとハニエルとヤスは残像を残すカタチでヒョイヒョイと回避するのだった。
あまり強そうには見えないんだけどなぁ……意外である。




