外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その14
しかし、マリエルは皮肉な目に遭ったもんだ。
火、水、風、土の四大精霊魔術を修めた魔術師でありながら、そんな魔術を一切使えないモノのレッテルを貼られ、オマケに賞金首にまで堕されるだなんて――。
しかも実の兄マーデルにである。
と、それはともかく、まるでスライムのようねベトベトした粘着質な液体で満たされた落とし穴の中にいる政敵である兄マーデルの差し金であるバリスとゴードンに対し、凍結魔弾なる魔術を撃ち込むのだった。
「う、うはぁ! 凄い冷気が吹き出してきた!」
「寒ィィ! ここだけ、まるで冬ッスね!」
「ふ、ふう、寒さに強いホッキョクグマで良かったなぁ。下手すりゃ、こっちまで被害が出る寒さだな」
「あうあうあうッ……け、毛皮を持たない人間って、こんなに寒さに弱かったのか……ガクッ!」
「あ、兄貴ィィ! 死んじゃダメだーッ!」
「勝手に殺すな! あまりに寒さに驚いただけさ!」
「さて、氷漬けになったとはいえ、しぶとく生きているコイツらには、ちょっとした仕事をやってもらうとするか――」
「ちょっとした仕事!?」
ハハハ、ホッキョクグマって本当に寒さに強いネ!
落とし穴の中から吹き出してきた猛烈な冷気を受けても平気だったワケだし☆
その一方で人間の姿に変身したおかげでハニエルは、寒い寒いと悲鳴をあげている。
さて、落とし穴の中で氷漬け状態となっているバリスとゴードンに、ちょっとした仕事をしてもらうってマリエルが言い出す。
ん、一体、何を――。
「多分……多分だけど、私のクソ兄がエフェポスの村のどこかに潜んでいると思うの……」
「ほうほう、それを面白そうだ。んじゃ、落とし穴の中で氷漬けになっている奴らに行ってもらう仕事っていうのは、そのクソ兄——マーデルだっけ? ソイツを誘き出すためってワケか?」
「その通りよ。兄……マーデルのコトだから、きっとホイホイとその姿を現す筈よ。何せ、物事を深く考えるってコトを知らないお人好しで単純な男ですもの☆」
お人好しで単純⁉
うーむ、マリエルの兄マーデルって、一体、どんな輩なんだろうなぁ……。
何気に気になる展開だ。
「ところで兄貴のマーデルって、どんな感じの男なんだ?」
「あ、はい、こんな感じです」
「うは、似顔絵かよ……って、描くのが早ッ!」
「あらら、でも、なんだかんだとイケメンですね、お姉様」
「フン、だけど、見掛け倒しなんだろう?」
「その通りです。兄はイケメンな外見以外、まったくイイところがないダメ男よ。当然、魔術の腕前もパッとしなくて……ああ、さっきも言ったとは思うけど、お人好しで単純ってところがある他、何もかも自分が一番じゃないと気が済まない傲慢な男で……ふう、困った輩でしょう?」
うへぇ、面倒くさい輩っぽいなぁ、マーデルって奴は……。
何もかも自分は一番じゃなきゃ気が済まない……ああ、そんなこんなで魔術の腕前で勝る妹のマリエルに対し、劣等感を抱いたんだろうなぁ。
だから、魔術を使えないモノのレッテルを貼り、オマケに賞金首へと堕すという行為に走ったんだろう。
「よし……なんだかんだと、氷漬けになっているアイツらを氷の中から掘り出さなくちゃね」
「掘り出すって⁉ どうやって?」
「こうするのよ。んん~……念動衝撃波!」
「お、おお、絶妙な感じの衝撃波でバリスが氷漬けになっている周りだけの氷を吹っ飛ばしている!」
「へえ、念動力も使えるなんて……やるじゃん!」
念動力って所謂、超能力の一種だっけ?
確か、物体を念力で浮遊させる……みたいな?
とまあ、そんな物体を浮遊させる念動力を衝撃波という破壊のエネルギーに転化し、落とし穴の底に溜まった氷結したネバネバしたスライムのような液体の中で氷漬け状態となっているバリスをマリエルは掘り起こそうとしているようだ。
「ま、こんな感じかな?」
「わお、掘り起こした氷漬け状態のバリスの身体が浮遊し始めた!」
「ゴードンは掘り起こさないの?」
「アレはそのまんまでいいわ。あの状態でも元気そうだしね」
「え、元気そう……そ、そうなのか?」
元気そうだって⁉ バリスと同じく氷漬けの状態であるゴードンは放置でOK……そ、それでいいのかな?
さて、落とし穴の底から氷漬け状態のバリスが、フワリフワリと浮きあがってくる。
マリエルの得意技のひとつである念動力が成せる技って感じだ。




