外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その13
「頑張れ! 超頑張れ!」
「いざとなったら手伝いますので、ご安心を――」
「由太郎、ファイトだ、ファイトだ!」
「ドンマイなんです☆」
「ちょ、お前らッ!」
二対一の闘いか……。
不利だね、絶対に……。
この状況を覆す方法はないもんか……。
つーか、俺に任せきりかよ!
キョウもマリエル、おまけにアタランテとデメテルさんも静観してないで手助けを!
く、仕方がない! 鞭の形状変化させたメルクリウスで打つべしッ……打つべしィィ!
「ギャ、ギャウッ!」
「ハハハ、痛くも痒くもありませんぞ。しかし、その一方で快感に☆」
「キキキ、キモいィィ! 近寄るなぁ!」
鞭に形状変化させたメルクリウスを振り回し、なんとかバリスの奴を弾き飛ばしたけど、ゴードンの奴は無理かもしれない。
む、鞭に形状変化させたメルクリウスを打ちつける度にニタニタと笑いながら接近してくるワケで――。
タ、タフなのか、それとも……うう、想像するだけでゾッとするぜ。
「デュフフフ、私はタフですぞぉ! 旦那なら死んでしまっても仕方がない一撃を受けようともなんともないのです!」
「コ、コラァァァ~~~! 私はまだ生きているぞ。勝手に殺すな!」
「お、旦那ぁ、生きていらっしゃいましたか!」
「当たり前だ! 俺を誰だと……ののの、のわーッ!」
「おおお、落とし穴ですとォォォ~~~!」
「よっしゃーッ! 落とし穴だぜェェェ~~~!」
「うは、落とし穴があったのか……あ、危ない。俺も一緒に落っこちるところだったぜ」
「し、知らなかった。落とし穴があるだなんて……」
「キョウさんが知らなくても当然ッス。俺も知らなかったッスから……」
「ワハハハ、切り札は誰にも教えるなって言うだろう?」
な、何ィィ! バタンッ——と、勢いよくなんの前触れもなくアジトの玄関の床が、轟音を奏でながら崩れ落ちる。
ちょ、落とし穴か、おい⁉
ふ、ふう、危なかった……危なく落っこちてしまうところだった……。
し、しかし、そんな落とし穴の存在を切り札を理由に仲間であるキョウやヤスにも内緒にしていただなんて悪質な兎ちゃんだな、ハニエルは――。
だが、上手い具合にバリスとゴードンが落とし穴の中の真っ逆様の落下する。
ちなみに、落とし穴の中には、ネバネバした粘着性の緑色の液体で満たされている。
う、鼻腔を刺激する酸っぱい臭いが巻きあげってきたぞ……く、コレは正直、キツい!
「なんかイイところを持っていかれた気分だな」
「ワハハハ、俺はずっと隙を狙っていたのさ!」
「兄貴、せめて俺にだけは教えてくれてもいいじゃないッスか!」
「落とし穴のコトを秘密にしやがって! 下手をしたら、俺らが落ちてしまうかもしれないだろう!」
「おいおい、切り札って言っただろう? それを口にしちゃ切り札じゃなくなるってもんよ!」
ま、まあ、切り札は口外しちゃいけないモノだよね。
とはいえ、落っこちたらタダでは済まない落とし穴のコトくらいは、アジトを共用するキョウやヤスにだけでも伝えておくべきだと、そう俺は思う。
「ふ、ふええッ……な、なんだ、コレはぁ……うう、酸っぱいし、オマケに動けないィィ!」
「これはスライムですかー⁉ ま、まあ、悪くないかも☆」
「ゴードン、ふざけるな! さっさと、ここから出るぞ!」
「むふぅ、無理かもしれませんなぁ。飛びあがろうにも、このネバネバした液体のせいで身動きが……」
うわぁ、アレは動けないだろうなぁ……。
ほら、例えるならゴキブリや鼠といった害虫、害獣駆除専用のアレのようなモノだしねぇ……。
もがけばもがくほど、落とし穴の中に満たされたネバネバした液体が、身体に絡みついていくって感じだしね。
「さて、コイツらをどうするかは私に任せてもらえるかな?」
「マリエル、何を……う、寒い! んん、マリエルの左手から冷気のようなモノが吹き出している!」
「落とし穴の中にいるアイツらを凍らせてやろうと思ってね☆」
「こ、凍らせるって⁉」
む、マリエルがニタニタと笑いながら、落とし穴の中でもがくバリスとゴードンを見下ろす――え、奴らを魔術で凍らせるって⁉
ああ、そういえば、バリスとゴードンはマリエルの兄であり、彼女を多額の賞金首へと陥れた政敵でもあるマーデル王子とやらの手先のような存在だったな。
故にマリエルは、兄の手先であるバリスとゴードンという障害を取り除く必要があるんだった。
とはいえ、落とし穴の中を凍らせて奴ら氷漬けにするってのは、ちと可哀想な気もするんだよなぁ。
「はい、こんな風に問答無用って感じで……凍結魔弾!」
「「ノ、ノオオオーッ!」」
た、確かに問答無用だな。
マリエルは左手に発言させた凍結魔弾——要するに触れたモノを一瞬でカチンコチンに氷結させてしまう氷の魔術を見下ろす先にいるバリスとゴードンがいる落とし穴の中を満たすネバネバした液体に向かって撃ち放つのだった。




