外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その12
「よっしゃーッ! これで互角だぜ……ウリャァ!」
「馬鹿め——ッ! 何が互角だ。タダ振り回しているだけだろう! 調子に乗るな!」
「ガ、ガアアアーッ!」
「鉄拳、そして蹴り……私が斧をぶん投げるだけの能無しだと思ったか?」
う、うぐ、バリスの奴が放つ正拳突き、それに回し蹴りが、奪い取ったバリストマホークの一本を頭上に掲げた状態で突撃した俺の顔面、そして脇腹に炸裂するのだった。
や、奴めッ——体術にも長けているのかもしれん。
「イ、イテテッ……こ、この野郎!」
「う、うごッ! ず、頭突きだとぉ!」
さて、なんだかんだと、俺も反撃をする。
素早くバリスの懐に入り込み力一杯ジャンプし、奴の顎に頭突きをぶちかます!
「うう、星が見える……く、一瞬、失神するかと思ったぞ、熊公! オラァ、頭をぶち割ってやんよ!」
「あ、危なかった……う、奪い取ったバリストマホークの一本でバリスの奴が持つもうひとつのバリストマホークで防がなかったら間違いなく頭を勝ち割られていたぜ!」
バリスめ、即反撃してきた。
グ、グヌヌッ……さ、流石にバリストマホークの一本を奪い取っただけじゃダメだ。
なんとか、そんなバリスの攻撃を防いだけど、奴の方が使い慣れている……ま、当然かな?
アレは元々は奴の所有物だしね。
「あ、由太郎さん。ソレは魔法の斧なんでしょう? 多分、アレができる筈です!」
「ア、アレ?」
ひょっとしてアドバイス⁉
と、デメテルさんが言うけど、アレってなんなんだーッ!
「ソレは多分、形状が変化すると思います」
「え、形状が変化する⁉」
「多分、エフェミスの町にある魔術博物館から盗まれたモノの筈です。んー、確か真名はメルクリウス……だったかな?」
え、バリストマホークは形状が変化する⁉
オマケにエフェミスの町にある魔術博物館から盗まれたモノ…だと…⁉
「な、何を言う! そんなワケがないだろう。ソレは私の所有物だ。故に形状の変化などはないし、盗品でもない!」
「ええー! ホントでござるかぁ?」
「ゴードン、何を言うんだ! 私が言うんだから間違いないィ!」
怪しいなッ……マジで怪しいな!
バリスは嘘を吐いているに違いない。
ほら、目が合った途端、白々しく目を逸らしたし――。
「あ、デメテルさんの話は本当だ。ほら、見ろよ……変わったぜ。形状がよぉ!」
「ゲ、ゲエーッ! マ、マジでェェェ~~~! し、しかもデカッ……まるで長柄の戦斧みたいだァ!」
「あ、でも、すぐにフニャフニャになっちまったぞ、おい!」
「アウアウ、久々ニ変化シタノデ疲レマシタヨ、御主人……」
お、なんだかんだと、バリストマホーク——訂正、メルクリウスの形状が片手でも扱える小型の斧から、両手で持たないと扱うコトが絶対に無理な大型の長柄の戦斧変化する。
もしかして持ち主が変わったコトが影響したのか⁉
だが、それも一瞬である。
すぐに長さや大きさソノモノは変化してはいないけいど、まるで空気の抜けた棒型の浮き輪のようにフニャフニャしたモノに……お、おいおい、形状が変化したところで、これじゃ戦えないだろうに!
「ワハハハァーッ! 何が形状変化だ! そんなんじゃまったく役に立たないぜ……オラァ!」
「ギャ、ギャフッ!」
う、うう、せっかくパワーアップキターッ! って思ったのに、これじゃ元も子もないぜ!
そんなワケで俺の顔面にバリスの右の回し蹴りが炸裂するのだった。
「く、こんなフニャフニャな武器じゃ奴には……ん、待てよ?」
「熊公、意外にもタフじゃないか! 俺の蹴りは、そこにいるゴードンでさえ悲鳴をあげるほどの威力があるというのに――」
「旦那ぁ、ありゃ、脛を蹴飛ばされたからですよ。ほら、脛ってどんな屈強なモノであっても弱点みたいな場所じゃないですかぁ。なんとかの泣き所って言いますしね」
「え、そうなの? 知らなかった、そんなコト……グ、グギャッ!」
「油断大敵だ、ゴルァ! こんなフニャフニャなモノは斧より……鞭として扱うぜ!」
さて、俺は再びメルクリウスの形状を変化させる——鞭だ!
今の状態のメルクリウスを斧から別の武器に形状変化させるなら、鞭が最良かなって思ったワケで――。
とにかく、鞭の形状変化させたメルクリウスをぶん回し、さっきのリベンジだとばかりに俺はバリス、そしてオマケにゴードンも一緒に薙ぎ払うのだった。
「アンギャーッ! 私までビシバシ鞭を打ちつけるなんて……」
「う、キモッ……い、今、ニタニタと笑ったろ!」
「気のせいです。この私が鞭で打たれて喜ぶようなモノに見えますか?」
「む、むう、それを自分で言うあたりは……ゾッとしたぜ」
「ま、とにかく、仕返しはさせてもらいますぞォォォ~~~!」
バリスの奴だけでも面倒くさいのに、黒豹獣人の姿に戻った状態ゴードンまでもが、俺に対し、襲いかかってくる!
ちょ、二対一なんて冗談じゃない!




