外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その11
自分の名前をつけてしまうほどのお気に入りの武器なんだろうなぁ。
でも、何故、斧?
剣や槍の方がカッコイイじゃないか!
ああ、でも、斧も渋いな、うんうん。
それはともかく、バリスの野郎が自分の名前をつけるほどのお気に入りの得物——バリストマホークをどうやって奪うかを考えなくちゃな。
デメテルさん曰く、鳥のように空中を飛び交うバリストマホークの軌道をよ~く見ろって言うが――。
「し、しかし、どうやってアレを奪えって言うんだ? 躱すのが精一杯だぜ!」
「おい、今、奪うって言っただろう? は、何を言うのかと思えば……愚かモノめ、死ねィ!」
「わ、わあああ、空飛ぶ斧が、もうひとつ増えたァァァ~~~!」
「忘れたのか、熊公! バリストマホークは二本! 隙をつくらぬ二段構えよ!」
「ふえええ、これじゃ奪うなんて無理だろうがァ!」
む、無理だな……。
俺を標的に追尾してくるバリストマホークが、もうひとつ増えたワケだし――って、元から二本携えていたんだった。
く、そのコトを忘れるなんて……俺の馬鹿!
「ん、気のせいかな? 奪い取るチャンスを即、発見してしまったかも……」
無理だなって言った矢先にチャンス到来である。
これって天運ってヤツ?
とにかく、俺の眼が上空から獲物を狙う二羽の鷹の如き二本の魔法の斧(?)であるバリストマホークのひとつに変化が見受けられるぞ。
「ヘッ……ヘロヘロォォォ~~~!」
「う、うぬぅ! 最初に熊公に投げつけた方のバリストマホークが魔力切れを起こしたようだ。く、俺の手から離れると、ほんの数分で魔力切れを起こすんだよなぁ、困った困った……」
「な、なるほどぉ! ネタバレサンキュー☆」
「うは、聞かれてしまったか! 小声でつぶやいたつもりだったんだけどなぁ……」
「旦那ぁ、でっかい声でくっちゃべってましたよ」
「ゴードン、嘘を吐くな!」
「いや、マジですよ。マジで——」
「と、とにかく、今がアレを奪うチャンスだな!」
へえ、持ち主であるバリスの手から離れると、ほんの数分で魔力切れを起こすのね。
そういうネタバレがあったのか……って、俺は何分間、逃げ回ったのやら?
おっと、そんなコトより、上空から獲物を狙う鷹の如く空中を飛び交う二本のバリストマホークの一本の今の状態を例えるなら、工事現場等の重労働を終えて疲れ果てた状態で帰宅するオッサンのようにヘロヘロとした動きである。
今だ……奪いなら今がチャンス!
「バリストマホーク……戻れッ!」
「了解シマシタ」
「ちょ、喋るのかよ! ま、魔法生物ってか?」
「ハハハ、その通りよ! バリストマホークは意思を持つ斧なのだァァァ~~~!」
「ウ、ウオ、何ヲスル! ヤ、ヤメロォ!」
「ちょ、誰だよ、お前ッ……つーか、それを奪うのは俺の筈だったのにィィ!」
な、何ィィ! 意思を持つ斧…だと…⁉
だからバリストマホークが喋ったのか……って、所謂、魔法生物とやらなのか?
ムムム、それはともかく、アタランテがヘロヘロな状態で空中を飛び交うバリストマホークをジャンプし、口でキャッチするのだった……お、お見事!
だが、それは俺が奪うつもりだったのにィィ!
「う、ちょっと臭い……ペッ!」
「ク、臭イダト!」
「う、うん、錆びた鉄の臭いがする」
「ナ、ナンダッテー!」
む、バリストマホークの一本を口でキャッチしたアタランテだけど、錆びた鉄の臭いがすると言ってヒョイと投げ捨てる。
もしかして手入れが行き届いていないってヤツか?
「よし、バリストマホークをGETだ……ん、コレってもしかして⁉」
アタランテが投げ捨てたバリストマホークの一本を俺は素早く拾いあげる――う、錆び臭い理由がわかったかもしれない。
「刃のあっちこっちに錆が浮き出しているぞ」
「なんだと!」
「お前、名前をつけるほどのお気に入りのモノくらい大事に扱ったらどうだ?」
「う、ううッ……」
「コレカラハ、アタナガ私ノご主人デス」
「お、マジで?」
「ハイ、アナタノオカゲデ魔力切レトイウ切羽詰マッタ状況ヲ脱スルコトガデキマシタノデ」
「なんだか都合のいい奴だな。ま、いいや、これで互角か⁉」
バリストマホークの刃をよく見ると、あっちこっちに赤錆が浮き出している。
これじゃ鉄錆の臭いが滲み出しても仕方がないかも――。
さて、バリストマホークに宿い意思が突然、持ち主であるバリスを裏切る。
んで、今日からアナタが新たなご主人様です——とばかりに俺の所有物となるのだった。
まったく、なんて都合のいいヤツなんだ!
だけど、これでバリスの奴と互角に戦うコトができるかもしれないぞ!




