外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その10
よォし、やってやる……やってやるぞッ!
真の姿である虎の獣人の姿に戻れないんじゃ俺にも勝機がある!
そんなこんなで俺はバリスに対し、突撃するのだったが、肝心なコトを忘れていたワケだ。
「その真っ白な毛に覆われた頭を真っ赤な血で染めてやんよ!」
「う、うああ、忘れていた! バリスの野郎が両手に斧を携えているコトを――ッ!」
バリスの両手は、暴力の象徴——武器である斧を携えているんだった!
それなのに素手で突撃するなんて――お、俺の馬鹿……馬鹿野郎!
「死ねェ! バリィィストマホォォォク!」
「ちょ、自分の名前を得物につけているのかよッ……かかか、間一髪のところで回避ィィ!」
わ、わおッ……俺の身体能力スゲェーッ!
間一髪のところでバリスの野郎が降り下ろしてきた斧の一撃を回避する――が、あくまで右手に握り締めている方の斧の一撃である。
そんなワケで――。
「忘れちゃいないか、熊公! お前が回避した一撃は右手に握っている斧の方だ。俺が携えている斧には、もうひとつ……左手にも斧を握っているんだぜ!」
「ギャーッ! そのコトを忘れてた!」
「得物っていうのは、左右の手に一本ずつ携える基本なんだぜ。隙を与えぬ二段構えってヤツさ!」
え、そういうモノなの?
ととと、とにかく、バリスは左手に握る斧が、俺の脳天目掛けて縦一直線斬りとばかりに降り下ろしてくるッ!
「こ、ここは両腕を交差させて防ぐッ……ダ、ダメだ! そんなんじゃ両腕ごと頭を叩き割られてしまう!」
俺の馬鹿、そんなんじゃ斧の重い一撃を防ぐコトなんて無理だ。
く、なんだかんだと、後ろの飛び退けるのが最良の回避方法だ!
「チッ……すばしっこいな!」
「自分で言うのもなんだが、攻撃を躱すのだけは得意かも……ウ、ウオーッ!」
「フン、本当に躱すのだけは得意のようだな」
「テ、テメェ! 斧をぶん投げてくるなんて反則だァーッ!」
「フン、闘いに反則もクソもあるか……バリストマホォォォクブゥゥゥメラン!」
よォし、なんとか……再び紙一重のところでバリスの左手から降り下ろされる斧の一撃を躱すコトができたぞ……って、おいおい、今度は斧を投げつけてきたぞ!
く、だが、回避しまくてやるーッ!
「こ、このッ! ちょこまかと躱しやがって! 当たれ、当たれェェェ~~~!」
「ば、馬鹿ッ! 当たったから死ぬかもしれないだろ! つーか、ブーメランみたいに戻ってくるのかよ、その斧は!」
「ワハハハァーッ! この斧は――バリストマホークは魔法の斧なのだ! だから手許の戻ってくる!」
「魔法の斧ねぇ。だから投げつけても手許に戻ってくる……便利だぁ、俺も欲しいぜ」
「由太郎、何を呑気なコトを――ほ、ほら、斧は飛んできた! 危ないィ!」
「お、おう、油断できねぇな……」
う、羨ましいィ!
例え投げつけても手許に戻ってくるとか、なんという便利なモノなんだ。
だが、そんな悠長なコトを言っている場合じゃない!
何かしらの魔術によってバリストマホークとやらは、まるで自立機能があるかの如く鳥のように空中を舞う斧でもあるってコトを忘れちゃいけないワケだし――。
「うわああ、死ぬッ……死ぬ死ぬゥゥゥ~~~!」
「躱すんじゃない! 当たれ、そして脳漿ぶちまけやがれ!」
「ちょ、無理ィィ!」
か、加減しろよ、馬鹿ァ!
マジで当たったら死ぬだろう!
「由太郎さん、ソレを奪っちゃうのです!」
「え、えええ、奪えって⁉」
と、そんな提案をすり暇があったら一緒に戦ってくださいよ、デメテルさん!
で、でも、奪えって、一体どうやって——。
「鳥のように空を飛びまわす斧ですが、よ~く、その軌道を見てください。奪うコトができるチャンスかもしれませんよぅ」
ちょ、それはどういうコト?
うーん、もしかして逃げ回りつつ追尾してくるバリストマホークの様子窺えって言うのかーッ!
「ハハハ、馬鹿めェェェ~~~! そうやっていつまでも逃げられると思うなよ!」
「だが、俺には逃げる他、方法がないのだーッ!」
とはいえ、バリストマホークを奪い取る方法も考えなくちゃな……さて、どうしたモノか?




