EP8 俺、古代文明の遺跡で動くミイラと出逢う。その14
「ぎゃ、ぎゃうううーん! あうあうあーっ!」
「よっしゃ、命中!」
「いいいい、痛いィィィ~~~! この下女、わらわに何をぶつけた!」
「おわー、急に俺でも理解できる言葉を喋り出したぞ、コイツ!」
と、<投擲>のカードに描かれた絵から飛び出した紫色の光の球体である螺旋を描く奔流――契約の呪印が、ズギュウウウンとミイラ女の額を撃ち抜く!
け、使い魔としての契約完了ってか!? ジュウウウッ――と、奇妙な幾何学模様のようなモノが額に浮きあがったことだしね。
これでミイラ女は、この俺――新米魔女キョウの四人目の使い魔ってわけだ!
そのせいだろうか? ミイラ女の言葉が理解できるようになったぞ、俺!
「貴様、わらわを馬鹿にしておるじゃろう?」
「はわわ、そんなことはないぞ!」
「ふん、それはどうかな? さて、わらわは喉が渇いたぞ。ワインを用意するのじゃ!」
「ワ、ワインだって!? そんなモノはない!」
「なんだと、それは残念じゃのう! じゃあ、そこの巨乳の金髪女、蜂蜜を持って参れ。」
「残念だが、そんな蜂蜜もないぞ。」
「ふむ、残念じゃのう。わらわの侍女の中には、常にワインや蜂蜜を持参しているモノがいたのだが……フン、仕方がない水で我慢しよう。さあ、下郎の下女共、水を持って来るのじゃ!」
うっわぁ、なんて言ってるかわかるとムカつくなぁ、コイツ!
つーか、俺達は召使いだと思っているっぽいなぁ、イライラ……。
さてと、俺以外にもミイラ女の言葉が理解できるようになったようだ。
なんだかんだと、契約の呪印のおかげだな!
「はいはい、お水ですよ、お姫様。」
「うむ、じゃあ、飲むとするか……しかし、なんて不格好な器だ。」
「それはバケツといっ……わ、全部、飲んだのかよ!」
ヒューなんて飲みっぷりだ!
バケツ一杯に満たされた地下水を全部、飲んじまったぞ、おい!
よ、余程、喉が渇いていたんだなぁ。
ま、そりゃそうか、飲まず食わずの状態が数千年続いたワケだし――。
「さてと、次は肉だ。わらわは肉が食いたいぞ! お、丁度イイところに……ジュルリ!」
「む、ミイラ女の視線の先には、兄貴とヤスが!?」
今度は肉が食べたいって!?
と、そう言い出すミイラ女の視線が、ギランと兄貴とヤスに狙いを定めるように向けられていることに俺は気がつく。
「ヒイイッ……あの眼は、お肉が大好きな猛獣や眼っす!」
「お、おい、あのミイラ女を黙らせろ、キョウ!」
「ああ、了解だ、兄貴! そういえば、兎の丸焼きは意外と美味いみたいだぜ。」
「そそそ、そんな冗談はやめろォォォ~~~!」
俺が本来いるべき世界の某国の肉屋の店頭には、皮を剥いだ兎が、生々しい状態で売ってたりするので、意外にも兎肉はポピュラーな食材だったりするのかもしれない。
ま、それはともかく、俺の身体と契約の呪印でリンクしている以上、ミイラ女は俺に逆らうことができない筈だ。
よし、なんでもいいからアイツに命令してみっか!
「肉、肉、お肉~♪ さあ、そこにいる兎を丸焼きにして、わらわのもとへ持って来るのじゃ! お、そういえば、他にも美味そうな獣がたくさんいるのう!」
ジュルリと舌で口許を舐めずり回すミイラ女は、ぐるんと周囲を見回す。
そういえば、兄貴とヤス以外の兎獣人やミーアキャットや土竜の獣人もルビーの石棺が鎮座する玄室内にいることを俺はすっかり忘れていたぜ。
「チッ……気取りやがって! キョウ!」
「ああ、任せとけ、兄貴……ミイラ女、動くな!」
「ん、さっきからミイラ女ミイラ女と言いおって! わらわにはピルケという立派な名前はあるぞ!」
「そうか、ピルケかぁ……よし、ピルケ、動くな!」
「う、うみゅうううううっ! かかか、身体が動かん!」
へえ、ミイラ女の名前はやっぱりピルケなのね。
さてと、契約の呪印が額に刻み込まれたおかげか、ビクンとミイラ女――ピルケの身体が硬直し、動かなくなる。
「やった、成功だ!」
「というか誰もが一度は聞いたことがある贅沢ピルケという子守歌の登場人物が、実在の人物だったとは――。」
「そういえば。デュオニス君は大好きだったよねぇ、あの歌が~☆」
「ううう、うっせぇ! そんなワケがないだろ! 変な冗談を言うなよ、ババア!」
「クククク、素直じゃないなぁ、まったく……って、ババアって誰よ!」
「ぎゃ、ぎゃふっ!」
贅沢ピルケねぇ、そんな子守歌に名前が残るほどの有名な人物なのか、ミイラ女ことピルケは――。
ま、とにかく、俺の一言で動けなくなったコイツの使い魔化は成功したワケだ。
後は使い魔として認めさせるだけだな。




