外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その7
人化の法——人間の姿に変身できるという獣人達の奥義である。
だが、昔と違って使い手が多い。
要するに、人間に変身できる獣人が多いワケだ。
しかし、広く流通してしまったが故、失敗する確率も高くなってしまったんだとか――。
その証拠が性転換だろう。
本来はオスであるが、人化の法を使うとメス化してしまうという。
それはともかく。
「兎天原古典魔術学会の連中は考えられないわ。あの人達は、私が奔走した時に手助けをしてくれた支援者……味方よ」
「ふむ、そうなのか……。さて、話をなんだかんだと、君達の聞いていたけど、貴女の政敵は、やはり……」
「ええ、多分、兄の仕業です!」
「なるほど、あの御方なら十分すぎるほどあり得るな」
「ん、バル先生でしたっけ? 兄のコトを知っているのですか?」
「ああ、当然ですとも! 何せ、あの御方——マーデル王子は、私の教え子のひとりだったからね」
む、バル先生はマリエルの政敵についての心当たりがあるようだ。
そんなマリエルの兄であり、彼女に魔術を使えないモノのレッテルを貼った政敵ことマーデル王子とやらは教え子のひとり…だと…⁉
「マーデル王子は魔術の腕前はイマイチだったけど、他はトップクラスの成績を修める生徒だったなぁ……っと、それはともかく、私は彼には少しばかり恨みがある」
「恨み? ま、まあ、兄は色々な方々から恨みを買うような奴ですし……」
「嫌な奴なんだな……」
「はい、物凄く性格の悪い嫌な男よ。兄マーデルは……」
「ん、ちょっとしたコトを思い出した!」
「え、何を思い出したんです、バル先生?」
「いやいや、大したコトではないのだけれど、マーデル王子絡み——ヴァルムント公国内で教鞭を振るっていた時の教え子が、このエフェポスの村にも〝いる〟コトを思い出してね」
「え、えええッ……それって、あの虎さん……バリスのコトですかぁ!」
「ズバリその通り!」
あのバリスもバル先生の教え子だって⁉
じゃあ、マリエルの兄マーデルと裏で繋がっている可能性があるな。
「さて、マリエル王女。貴女の首には一千万マーテルゴールドという多額を得られている」
「ああ、なんだかんだと、そのコトをすっかり忘れていたぜ、クククク……」
そういえば、マリエルは生け捕りにすれば一千万マーテルゴールドという多額を得られる賞金首だったな。
そのコトをすっかり忘れていたぜ。
さて、どうしたモノか……。
「う、その目は……私を兄に売る気ですねッ! げ、外道ォォォ~~~!」
「おいおい、勝手に決めんな! ま、まあ、一千万マーテルゴールドという多額の賞金に目が眩んだけど……」
「うわあ、やっぱりィィ!」
「はいはい、その前に地上げ屋のバリスさんでしたっけ? あの面倒くさい虎さんが、すぐそこまで迫って来ているのです」
「あ、デメテルさん! い、いつの間に……」
「あらあら、さっきから一緒にいたのですよ。気づかなかったんですかぁ?」
そんな声が背後から聞こえて来たので背後を振り返ると、そこには妙齢な眼鏡美女……ああ、デメテルさんの姿が――。
ちょ、アンタ、いつの間にィ!
オマケに俺達の話を一から十——すべて知っているかのような物言いだ。
それはともく、バリスが俺が今いる場所――キョウのアジトに迫っているようだ。
う、ドアを叩く音が聞こえてきたぞ!
「そこの窓からアジトの入り口が見えるッス!」
「どれどれ……う、うおッ! アイツは虎のバリスじゃん!」
「子分のゴードンも一緒ッス。だけど、アイツは何気にイイ奴なんスよねぇ……」
「うむ、だが、あの鬼畜な地上げ屋のバリスの子分とは思えんイイ奴なのはわかる」
え、バリスの子分である黒豹獣人のバリスはイイ奴だって⁉
それはともかく、俺達がマリエルと一緒にいるコトを嗅ぎつけたのかもしれないな。




