外伝EP12 男装王女とホッキョクグマ その5
「さて、ここなら奴も気づくまい」
「は、はあ、でも、ここって……空き家?」
「空き家じゃない。アジトだ」
「アジトねぇ……こんな隠れ家を持っていたとはねぇ」
アジトかぁ、まるで教会のような施設だな。
おっと、それはともかく、俺はキョウと一緒に確保した指名手配犯——かもしれない男装女子ことマリウスをキョウがアジトだっていう一見すると寂れた空き家といった感じの雰囲気を醸し出す建物の中へと連れ込むのだった。
ああ、そういえば、兎天原にはラーティアナ教って宗教って存在してるんだっけ?
多分、そんなラーティアナ教絡みの廃教会なんだろうなぁ、ここは――。
「ん、なんだぁ、その人間は?」
「魔法の荒縄で縛られているッス!」
「お姉様、お帰りなさい。ん、一緒にいる縛られた帽子のコは誰です?」
「あ、ソイツは図書館にいた人間じゃん」
ん、二羽の喋る二足歩行の兎――緑色の服を着た兎獣人と眼鏡をかけた兎獣人、オマケにさっきまで図書館にいた筈のアタランテとグラーニアも一緒だ。
「兄貴、それにヤス、丁度イイところに来た。コイツを書庫にでも連れてってくれ。俺は外の様子を窺いに行ってくる」
「あ、ああ、イイッスよ」
「つーか、誰だよ、コイツ?」
「よくわからんけど、地上げ屋のバリスと子分のゴードンに狙われているっぽいんだ。どうやら賞金首らしい」
「え、まさか⁉」
「賞金首⁉ ま、まあ、とにかく、書庫に連れて行くぜ」
キョウが廃教会——いや、アジトの外へ出て行く。
恐らくはバリスとゴードンが近くにいないか、その確認だろう。
さて、なんだかんだと、マリウスを捕まえるのを手伝う約束をしたが、それを反故したカタチになるワケだ。
ここに連れ込む姿をバリスとゴードンに見られた場合、面倒くさいコトになりそうだなぁ……。
「キョウの奴、戻って来ないな」
「それはともかく、この手配書の似顔絵に似てない?」
「一千万マーテルゴールドだと⁉ すっげぇ賞金首……マリエル・ヴィルオーブじゃねぇのか、コイツ!」
「兄貴ィ、他人の空似かもしれないッスよ」
「それはともかく、地上げ屋のバリスの奴につけ狙われる理由を訊きたいのだが?」
「……その前に、私が訊きたい」」
「え、何が?」
「私の身体を縛る縄を解いてもイイのかって?」
「おおお、おいィィ! それを訊く前に、もう解いているじゃないかッ!」
さて、俺達は今いる廃教会——いや、キョウのアジトの書庫へと赴く。
へえ、中々、広いじゃん。
さっきまでいた図書館に匹敵するほどの蔵書数だ。
と、それはどうでもいいって思えるコトが起きる!
マリウスの身体を縛る魔法の縄が、シュルシュルと独りでに解けているじゃないかぁ!
ちょ、魔法の縄というワケで、名前の響きから、そう簡単に解けるモノじゃないと思っていたんだが、それは間違いだったのかぁ⁉
「魔法の縄を自力で解くなんて……う、嘘でしょう! それは魔狼も捕らえるコトができるって代物なのに……」
「そりゃ、嘘だな。誰から買ったかは知らんけど、売り文句が大袈裟すぎッ!」
「それはともかく、自力で解くのが無理な魔法の縄なんスよね? それを呆気なく解いたってコトは、あの人間のオスはタダモノじゃないのかもしれないッスね」
「あ~……言わなきゃダメだな。アレは男の格好をした女らしいんだ。所謂、男装女子ってヤツだ」
「え、人間のメスなんスか? しかし、物好きッスね。人間は……」
マリウスの奴、何故、男装なんか……。
とにかく、グラーニアが言う魔狼とやらも捕らえるコトができる魔法の縄を自力で解くほどの猛者なのかもしれないな。
「さて、ここなら、あの怖い虎さんが来なそうだし、安全そうだ。そんなワケだからさ、お願い!」
「お、お願い?」
「うん、着替えたいの……もし人間の女性用に服があれば貸してもらえないかな?」
「ああ、イイぜ。だが、何故、男装なんかしているのかって理由を語ってもらうぜ。これが取引だ」
「う、うん……」
書庫にキョウがやって来る。
見回りはもういいのかな——と、それはともかく、女性モノの服を貸してほしいと言うマリウスに対し、そんな取引を持ちかけるのだった。




