外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その32
兎天原の古代世界に於いてニャガルタという人物は、自身の右に出るモノはいないと言われるくらい巨万の富を得た存在として、その伝説が語り継がれている。
一説では、彼の総資産額は、当時の兎天原の東方を統一していた王をも凌ぐとまで言われていたそうだ。
故に、彼の死後、墓を暴こうと目論むモノが絶えなかったという。
無論、墓の中に眠る巨万の富……副葬品である。
だが、ソイツの墓と思われる遺跡ことニャガルタ遺跡の玄室内は――。
「ふえ、何もない……」
「オマケに石棺も壊れているし、中身も空っぽだな」
「チェッ……壊し甲斐がないなぁ……」
な、何もない……あ、ああ、壊れた石棺があるけど、中身は当然とばかりに空っぽである。
本当に、ここが古代の大富豪……いや、超富豪ニャガルタの墓かもしれない遺跡なのかぁ?
そう疑いたくなったぜ。
「しかし、あんな単純な仕掛けに誰も気づかないとはね」
「ま、無理なのです。アレを読めるモノは考古学者でも一握りなのですから……」
さて、俺達が足を踏み入れた場所――ボロボロに朽ちた白亜の台座だけが残された古代遺跡であるニャガルタ遺跡の地下にある玄室へ来るに当たって、ちょっとした仕掛けをクリアしなければいけなかったんだ。
え、どんな仕掛けが施されていたのかって?
ん~……ありていに説明するなら、現在の兎天原ではまったく使われなくなった文字が刻まれたボタンっぽいモノを弄った結果、地下にある玄室へと繋がる通路を出現させるという仕掛けが解けたってところだろうか?
「すでに盗掘被害に遭っているようだな」
「ご丁寧に目立つモノを片っ端から持ち去ったようだ。んで、要らないモノは打ち捨てられたって感じね」
「これは金銀財宝が詰め込まれていた壺なんかの破片かな?」
「まあ、とにかく、盗掘被害に遭ったのは、もう何百年も前って感じね」
ニャガルタ遺跡の地下――彼葬者の遺体が安置されていた筈の場所である玄室内の様子を一言で説明すると荒れ放題である。
何せ、俺の足許の壊れた副葬品の破片っぽいモノが散乱しているしね。
要するに、ここはすでに盗掘されていたってワケ。
何百年も前に――いや、それ以上の年月が経過しているかもしれないな。
「ここにどんなモノがあったんだろう。物凄く気になるなぁ……」
「む、玄室の奥に石棺と思われるモノがあるぞ」
荒れ放題の玄室の奥に石棺があるぞ。
うーむ、アレ以外、目立つモノはないなぁ……。
ああ、そんな石棺の蓋がなくなっている。
オマケに中身も空っぽだ。
「ん、コイツは石棺の蓋の破片かな? あ、ヘンテコリンな文字が刻んであるぞ」
「さっきのボタンにも同じようなヘンテコリンな文字が刻んであったのです」
「熊公、ソレを私にも見せてくれ……ウサルカ文字か、これ⁉」
さて、破壊された石棺の蓋の破片っぽいモノを俺が拾う。
ん、解読不明のヘンテコリンな――いやいや、謎めいた文字が刻まれてるぞ。
そういえば、アタランテの言う通り、玄室へと続く通路を出現させる仕掛けのボタンにも同じような文字が刻まれていたような気がする――ウサルカ文字?
俺から石棺の蓋の破片を取りあげると、そうドリスが口にするのだった。
「ほう、やっぱりアレはウサルカ文字だったのか! 確か考古学者さんもお手上げな古代文字だったね!」
「その通りだ、ミューズ氏。ウチのお抱え考古学者のルダトンも読めないしな」
「む、ドリス殿、それは私に対する皮肉ですかな?」
「つーか、なんとなくだけど、俺には読めるんだが……」
「「「な、なんだってー!」」」
いや、本当だ……嘘じゃないぞ。
単に自信がないだけなんだが、なんとなく読めるんだ。
件の石棺の蓋の破片に刻まれたウサルカ文字を――。




