外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その29
兎天原は幻想世界である。
故、俺が知らない物事が多い……多すぎる!
そんなワケだ。
俺にとっては何もかもが不思議で仕方がないんだよなぁー。
んで、俺の目の前で展開する光景も当然、不思議なコトであり、俺の知らないモノである。
さて。
「これは魔導書なのです。知っていますか?」
「魔導書? ん~……知らん。どんなモノなのか、それがさっぱりだ」
「ん~……ありていに言いますと、〝力ある本〟なのです。オマケに〝生きている〟のです」
「生きている…本…だと⁉」
亡霊リーダーを倒すコトができる切り札……なのか?
とにかく、デメテルさんが持っている本は生きている本のようだ。
「わああ、助けてぇ! デメテル先生、早く早く……し、死ぬ、死ぬッ!」
「まだ憑依されてないのです。呪文の詠唱が終わるまで逃げ続けてください」
「アハハ、頑張れ! アタランテ!」
「ううう、こうなりゃ逃げまくるか! デメテル先生、早く呪文詠唱を終わらせてくださいね……ウリャーッ!」
「お、おい、ヤバいぞ! ピンクのモヤモヤ……亡霊リーダーの奴の空中を移動する速度が速すぎて、もう追いつかれそうだ!」
高速で空中を漂うピンクのモヤモヤって感じの姿なんだよなぁ、亡霊リーダーの真の姿は――。
んで、コイツを倒すためには魔導書+何かしらの呪文を詠唱しなくちゃいけないようだ。
デメテルさん、早いとこ詠唱を唱え終えてくれ!
なんだかんだと、アタランテがすぐに亡霊リーダーに捕まってしまいそうだし――。
「よし、ここはひとつ協力してやろうではないかー! ウリャーッ!」
「お、おお、キュベレの鉄拳が気薄なピンクのモヤモヤ状態の亡霊リーダーを殴り飛ばしたぞ!」
「わ、わあ、ありがとう、女神様……あ、でも、よく殴れましたね。アレは実体を持たない気薄な輩なのに……」
「フフン、それはわらわが女神だからだ☆」
「あ、ああ、そうなんだ……へ、へえ~」
アタランテは後一歩のところで憑依されてしまう——と、そんな絶体絶命の瞬間に絶妙な一撃がピンクのモヤモヤこと亡霊リーダーを吹き飛ばす。
赤い髪のチンチクリンな女のコ……いやいや、キュベレの鉄拳が炸裂したってワケだ。
ああ、亡霊リーダーは実体を持っていないので普通なら触れるコトができないのだが、そこは極めて神性度の高い存在(?)である女神だからこそ触れる……いや、殴るコトができたんだろう。
「ウォノレェェェ~~! 俺ノ新シイ肉体ガ逃ゲテシマッタデハナイカ! ユ、許サンゾ、小娘ェェェ~~~!」
「誰が小娘だ! 不敬な奴め……ギャンッ!」
「ちょ……燃え盛る火炎のように真っ赤な右手に変化したぞ、アイツ!」
「うーん、本当に亡霊なのかな、アイツ……」
亡霊リーダーの姿が、ピンクのモヤモヤという状態から、燃え盛る火炎の如く真っ赤で巨大な右手に変化する!
ちょ、見た目を変化させるコトもできるのか、亡霊リーダーの奴!
んで、即座にキュベレに対し、反撃をするのだった……ああ、キュベレが弧を描きながら吹っ飛んいった!
「クケケケッ……俺ハ、コノ状態デモ強イゼ! サテ、俺ニ触レルコトガデキル奴ガ吹ッ飛ンデイッタ……気兼ネナク新タナ肉体ヲ得ラレルッテワケダ!」
「ヒ、ヒイイッ! デメテル先生、まだ……まだですかッ!」
「はいは~い、今、終わったのですよー☆ では、やっちゃいますか……亡霊喰らいの書……起動!」
お、おお、デメテルさんの魔導書が赤い光を放ち始める。
そんな魔導書は生きている本だ。
そんなワケでデメテルさんの呪文詠唱によって目を覚ましたってところか⁉
「あっ……」
「どどど、どうしたんです?」
「亡者喰らいの書を使うのは初めてなのです。だから、何が起きるかわからないのです……テヘ☆」
「「テ、テヘ……じゃねェェェ~~~!」」
ちょ、そんな肝心なコトを何故、起動させる前に言わないんだァァァ~~~!
う、うわ、眩しいッ……あ、赤い光が何もかもを包み込んでいく!




