外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その25
こりゃ重症だな。
下手すりゃ死ぬわ……。
何せ、巨大な鉄の鞭……いやいや、触手が、回避不可能な速度で左右から襲ってきたワケだし――。
だが、そう思った刹那——。
「い、痛くない……痛くない……ぞ⁉」
「ギ、ギギギッ⁉」
「お、おわっ……あ、あれ、何をしたんだぁ、お前……」
「ギイイイギギガァッ!」
ん~……率直に言う。
触手兎の攻撃を受けても、まったく痛くないぞ。
そうだなぁ、例えるなら軽く指で軽く突かれたくらいだ。
おいおい、こりゃ、どうなっているんだぁ……。
「ああ、カラクリがわかったのです!」
「え、デメテル先生、それは一体……」
「説明するのです。由太郎はホッキョクグマ……影の森に巣食う亡霊共が嫌う白い生き物なのです! 故に、奴らの攻撃をほぼ無力化するのです!」
「え、そんな原理が……うーん、とにかく、チャンスよ、由太郎!」
「お、おう!」
へ、へえ、今いる影の森に巣食う亡霊共が嫌う白い生物であるホッキョクグマの俺の身体には、奴らに――オマケに奴らに憑依されたモノからの攻撃を無力化する力が宿るのか⁉
なんだかんだと、それが本当なら僥倖!
よし、これで奴に今度こそ近寄れるぞ……多分!
「ギギギ、グガガガガッ!」
「はいはい、痛い、痛い、痛いですよ~☆」
「ガ、ガゴギギギギッ! ギガガガゴルルルッ!」
「なんて言っているのかは、まったくわからんけど、いい加減にソイツを解放してやれよ……オラーッ!」
コイツが何を言っているかなんてわかるワケがない。
が、そんな理解不能な言葉を訳すまでもないだろう。
こっちに来るな――という意味だろうしね。
まあ、とにかく、いい加減に触手兎ことウサキチの身体から出て行けッ——とばかりに、俺は渾身の熊パンチを叩き込むのだった。
「ぶ、ぶべらっ! は、はう、俺は一体……」
「お、おお、亡霊がウサキチの身体から退去したようだな」
「ん、ドリスだっけ? アンタ……平気そうだな」
「当たり前だ。あの程度の攻撃じゃ私を再起不能に追い込むことなんざァ無理な話さ」
「へ、へえ、そうなんだ。タフだな」
「そんなコトより、人助けと思って他の仲間もぶん殴ってくれ!」
「人助けじゃなくて獣助けだろう? う、うむ……この際、仕方がない……ドリャーッ!」
ドリスって女、意外とタフだな。
触手兎の攻撃を受けて激しくぶっ飛んだのに、まるで何もなかったかのようにピンピンしているしね。
さて、人助けじゃなくて獣助けとばかりに、俺はウサキチと同様、亡霊に憑依された古代遺跡ぶっ壊し隊の連中に対し、鉄拳を叩き込むのだった。
うーん、しかし、殴るコトが本当に人助けじゃなくて獣助けになるのかぁ、本当に……。
「わお、はっきり見えたわ。由太郎に殴られた狐獣人の身体から半透明の骸骨みたいなモノが……亡霊が飛び出すのを!」
「でも、烏賊と骸骨が一緒くたになったモノだった気も……うげぇ、こっちは骸骨と蛸が一緒くたになった半透明のモノ……亡霊が憑依していたのか⁉」
影の森に巣食う亡霊共って、もしかして海洋生物の亡霊なのか⁉
うーむ、俺が憑依している古代遺跡ぶっ壊し隊の連中をぶん殴る度、連中の身体から飛び出していくモノ――亡霊は、骸骨と烏賊、それに蛸が融合したような姿だしな。
「ふ、ふうふう、粗方、亡霊に憑依されたお前の仲間をぶん殴って身体から亡霊共を追い出したぞ!」
「お、やるじゃない……ん、奥から誰かやって来たぞ」
「上半身は人間の女性だけど、下半身は大蛇⁉」
「ラミアよ。ほら、エフェミスの町にもいたじゃん」
「あ、ああ、そうだったな」
「んん、もしかしてミューズさんでは?」
「え、あの蛇女がミューズさん⁉」
む、森の奥から上半身が人間の女性だけど、下半身が大蛇というエフェミスの町の周辺に住んでいる混合生物と言っても間違っていないラミアが現れる……え、アレがミューズさんだって⁉
な、なんだかんだと、俺達が探しているミューズさん発見だな。




