外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その19
エフェミスの町は例え季節が冬であっても雪が積もらないという。
現に街中には、常に暖かく地面には一切、雪が見受けられない。
何かしらの魔術で冷たい北風、そして雪が入り込まないように防御していたりして——。
ああ、そういえば、今は人間主体の町だけど、寒さが苦手な爬虫類型獣人の町だったという理由もあるんだろうなぁ、多分。
「うはー……来てしまった……来てしまったァァァ~~~!」
「う、うん……来てしまったよね。影の森に……」
「まあ、気にするな。ミューズとやらを連れ帰りたいのだろう?」
「それはそうなんだけどさぁ……」
「来てしまった以上、後戻りはできないのですよ! さ、行きますよ、皆さん!」
「ちょ、デメテルさん、心の準備がまだ……ま、待てよ、おい!」
うーん、まさか亡霊の住処だっていう曰くつきの場所に俺は来てしまった。
ミューズさんを探そう——と、行動に移るデメテルさんに乗せられてしまったぜ、まったく……。
ちなみにだけど、影の森とやらは、俺が見た感じでは、特に何も変わったところがないごくごく普通の森に見えるんだけどなぁ……。
「フフフ、しかし、わらわ達が運がイイぞ」
「え、運がイイ?」
「ああ、この森に巣食うモノ共は白い生き物を忌避する傾向があった筈だしな」
「なるほど、それじゃ真っ白な子熊である由太郎大活躍じゃん☆」
「ちょ、アテにされてないか、俺?」
え、影の森に巣食うモノ共――亡霊共は、ホッキョクグマのような白い生き物を忌避するって⁉
む、むう、だからってアテにされても……。
「あ、早速だけど、影の森に巣食う亡霊の一体が、こっちに向かってきたぞ」
「由太郎、出番よ!」
「う、うええ、出番だってェェェ~~~! うお、身体が動かくなった……か、金縛りってヤツ?」
影の森に巣食う亡霊の一体が、俺達の存在に気づいて姿を現した?
だけど、目の前には何もいないぞ……う、うお、突然、全身が弛緩し、動けなくなった……ま、まさか、俺にはその姿が見えない亡霊のよって引き起こされた金縛りなのか⁉
「う、動けねぇ……動けねぇ! う、うおお、こんなタイミングで見えるなんて……ががが、骸骨だ! か、下半身がない……上半身だけの透けた人間の骸骨が近づいて来る!」
うく、なんてタイミングで金縛りになってしまったんだ、俺は!
ううう、幽霊が……あああ、見えた……下半身がない上半身だけの透けた骸骨……キターッ!
『ギ、ギギギエーッ!』
「う、うう、叫び声をあげた……あ、消えた!」
ちょ、何が起きたんだぁ?
幽霊が身の毛の弥立つ叫び声を張りあげると同時に、バッと空気の中に溶け込むかのように、俺の目の前から消え失せる。
「よし、上出来だ。やはり、この森の亡霊は白い生き物が苦手のようだな」
「ぐ、偶然だろう? あ、あれ、動けるようになったぞ……」
影の森に巣食う亡霊共は、やはり白い生き物——子熊とはいえ、ホッキョクグマである俺が苦手だったりするんだろうか?
ふう、何はともあれ、亡霊がいなくなった途端、身体が動くようになったぞ。
これでとりあえず、一安心だな……。
「おお、亡霊が引いたな。ところで身体に何かしらの変化があったりするか?」
「い、いや、特に……」
「ふむ、なんだかんだと、お前らは運がイイな」
「え、運がイイ?」
「亡霊……あの手のモノの叫び声には、聞いたモノに精神的ダメージを効果があるみたい……」
「な、なぬぅ!」
「だから、私達は運がイイのかもしれない……」
ぬ、ぬう、亡霊の叫び声には、聞いたモノの精神にダメージを与える効果がある…だと…⁉
じゃあ、運が悪けりゃ聞いた途端、失神なんてこともあり……かな?
なんだかんだと、次に遭遇した場合は注意しなくちゃいけないな、こりゃ……。
「やれやれ、この先へ行くと、また遭遇しそうだぞ。さっきの亡霊の仲間に……」
「そりゃそうだろう? ここは影の森……亡霊共の住処だしな」
「うえええ、やっぱりィィ!」
「だが、奴らはお前のような白い生き物が苦手だし、大丈夫だろう? それに影の森には財宝が眠っているかもな。この森の奥に手付かずの古代遺跡があった筈だ。うん、神であるわらわが言うんだ。間違いない」
「お、おお、なんだかんだと、それは気になるな……」
うーむ、気になる話だ。
ミューズさんとやらを探す次いでに、キュベレが言う件の古代遺跡を探してみるかな。




