外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その18
俺が今いるエフェミスの町は、人間が中心の大都市と言っても間違いない大きな町である。
とはいえ、街中には、主にエフェポスの村に住んでいる連中――獣人や鳥人の姿もチラホラと見受けられる。
だが、この町にいる獣人は、主に爬虫類系だな。
二足歩行の蜥蜴や鰐、それに亀……お、おお、上半身が人間の女性だけど、下半身は大蛇という異形なモノもけっこういるぞ!
「ありゃラミアだ。主な生息地がエフェミスの町の周辺に住んでいるから、エフェミスの町にも当然、住んでいるワケだ:」
「へ、へえ、そうなんだぁ……お、それはともかく、出版社ってここか?」
「そうなのです。早速、原稿を届けるのです!」
「今回の絵画コンテストで……私はアンタに勝つ!」
「フン、それは私の台詞よ! この丸焦げ!」
「にゃ、にゃんですってェェェ~~~! ええい、絶対に負けないんだからァァァ~~~!」
「ム、ムムッ……先を越されるかァァァ~~~!
さて、なんだかんだと、俺達は目的地——エフェミスの町の街中にある出版社の前までやって来る。
んで、デメテルさん、それにアスタルテとアフロディーテが、そんな出版社の玄関に向かって殴り込みをかけるかのような勢いで駆け込む。
よし、俺もついて行ってみるか――。
「ふえ、出版社の中も爬虫類型の獣人だらけだな」
「まあね。ここら辺は元から爬虫類型の獣人が多く住んでいた土地だし、今いる出版社で働くモノの中にもいても当然じゃないかな?」
「爬虫類型の獣人は、昔はもっといたらしいのです」
「だけど、人間が数人しか住んでいない辺境と言っても間違いないエフェポスの村や同類の爬虫類型獣人が数多く住んでいる南方に移住した連中が多いみたい。人間の領域からゾロゾロとやって来る入植者を嫌って……」
「ふーん、じゃあ、あのストーブが届かないって騒いでいた鰐なんかは、元々はここら辺に住んでいたのかもなぁ」
爬虫類型の獣人は、主に兎天原の南方に住んでいるようだ。
それはともかく、爬虫類型の獣人は人間の領域——兎天原の北方からやって来た人間の入植達を嫌って他の区域に移住したモノが多いんだとか――。
故に、現在のエフェミスの町の人口は人間の方が多いようだ。
うーん、アタランテのそんな話を聞くと、元人間である俺としては複雑な気分になるんですけど……。
「な、なんですって! 主催者のミューズさんが行方不明ですって!」
「ちょ、それじゃ絵画のコンテストは、どうなるのさァァァ~~~!」
ん、アスタルテとアフロディーテの今いる出版社の一階の受付のところから聞こえてくる。
おいおい、出版社の中に足を踏み入れた途端、何かしらのトラブル発生ってか⁉
「ミューズさんが行方不明……これは一大事なのです!」
「デメテルさん、一大事って……」
「ワハハハ、大方、影の森にでも出張って行方不明になったとか?」
「ズバリ、その通り……ビンゴですッ! あの森にネタ探しに向かってから戻って来ないのです。彼是、三日くらい経つでしょうか……」
「う、うお、わらわは適当に言ったつもりなんだが、まさかビンゴとは……」
影の森?
どんな場所からは知らないけど、キュベレが適当に言ったことが、どうやら的中したようだ。
受付のところにいるネクタイを身に着けた亀がビンゴッ——と、慌てた様子で言ったワケだしねぇ……。
「なあ、ミューズさんって誰?」
「今いる出版社の編集長なのです」
「へえ、編集長なんだ」
「んで、私が参加しようと考えている絵画のコンテストの主催者でもあるわ」
「ミューズさんとはいえば、編集長である自らネタ探しにあっちこっちに出張る忙しい人だったなぁ……」
「ふーん、それじゃ影の森ン中に出張っても別段、可笑しくはないね」
「その影の森って、一体、どんなところなんだぁ?」
「そうだな。一言で言うなら亡霊共の住処ってヤツさ」
「ぼ、亡霊共の住処⁉ そりゃ行ったら絶対、何かしらのトラブルに巻き込まれそうだな、おい!」
俺達が今いる出版社の編集長であるミューズさんとやらは、自らネタ探しに出張る忙しい人物のようだ。
ンで、そんな自らネタ探しに出張るって行為が、自身に厄災を招いたっぽい気がする。
亡霊の住処なんて言われている曰くつきの森っぽい影の森とやらへ行ったきり戻って来ないという話だしねぇ……。
「ミューズさんを探しに影の森へレッツゴーなのです!」
「ちょ、デメテルさん、アンタ何を……」
「幸いなコトに影の森は、エフェミスの町のすぐ側にあるのです」
「おお、なんだか面白いコトになったな! よし、わらわも行こう!」
「む、むう……」
えええ、ミューズを探しに件の影の森へ⁉
と、デメテルさんが言い出す……う、キュベレが賛同したぞ。
まったく、面倒くさいコトを言い始めたなぁ……さ、俺はどうするかな?




