外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その12
聞いた話によると兎天原は、トンてもなく広大な盆地なんだとか――。
んで、そんな兎天原の全土を掌握している支配国家があるそうだ。
その名はマーテル王国。
建国から数えて千年だったか、八百年だったか――とにかく、長い歴史と文化を謳歌する国だって聞く。
ああ、オマケにマーテル王国は人間の国らしい。
へえ、兎天原では少数派である人間が、なんだかんだと、大多数を占める獣人や鳥人を差し置いて頂点に立っているワケね!
さて、俺達が今いるマグナ山ってところだけど、ここは兎天原の支配国家であるマーテル王国を中心に信仰されているラーティアナ教とかいう宗教の聖地とひとつらしい。
それ故なのか?
理由は彼是あるようだけど、ここは女人禁制——要するに、女性の立ち入りが禁じられた場所である。
そんなこんなで一緒にエフェミスの町へ向かうデメテルさんが、何気にピンチなんだよなぁ。
マグナ山に祀られている女神とやらが、人間の女性が足を踏み入れると嫉妬するそうだし……。
ああ、それで女人禁制となったのかな、ここは……。
「デメテルさん、待って!」
「待てないのです! キュベレに気づかれる前の下山したのです!」
「例の女神の名前はキュベレっていうのか……う、中々の健脚だな。獣道のような雪道を勢いよく進んでいるしね」
「そんなことはどうでもいいわ、由太郎。ここはマグナ山……女神キュベレの他にも今の時期、限定で面倒くさいモノが出現するから、私達もさっさと下山すべきなのよ!」
「き、季節限定のモンスターが出るとか?」
「そのまさかだ……むう、ウワサをすれば影ってヤツだな」
「え、ウワサをすれば影? どういうことだ、ジーク……」
「おい、気づかないのか? アレを見ろ!」
「ん、雪だるま……う、うお、雪だるまが動き出して、こっちへ向かってくる!」
「アレが冬季限定の魔物——スノーゴーレムだ!」
マグナ山から一刻も早く下山しようと躍起になって獣道のような細い雪道を降るデメテルさんの後を追おうとした時である!
グアアアアッ——と、赤いニットキャップをかぶった動く巨大な雪だるまが地面から飛び出してくる。
冬季限定の魔物スノーゴーレムというモノらしいが……む、むう、雪の中に身を潜めていたのか、コイツ!
「スノーゴーレムは妖精の一種だと言っている学者もいるが、どうも見ても雪だるまの中に真の姿を隠す肉食獣だろう?」
「なるほど、だから、毎年、冬になると被害者が出るワケね……」
「用意周到な偽装ね!」
「えええ、そう? ちょ、その前にアレが妖精の一種? だけど、実は肉食獣……って、ウワアアッ! なんか蛸の触手みたいなモノが……っななな、なんだよ、コイツゥ!」
スノーゴーレムは妖精の一種だって?
んで、その一方で雪だるまに偽装した肉食獣?
うーむ、正体不明のナマモノなのかもしれん。
ちょ、それどころか、そんなスノーゴーレムの雪でできた身体から、蛸や烏賊といった海洋生物が持つウネウネとした触手のようなモノが見受けられるぞ!
「わ、スノーゴーレム!」
「デメテルさん、危ない!」
「えいっ!」
「うお、デメテルさんの右手が一瞬だけど、赤く光った気がする……お、おお、目の前に現れたスノーゴーレムを爆殺したぞ、おいィィ!」
うく、スノーゴーレムはどこから現れるかわからない油断できない存在だな!
先行するカタチで下山するデメテルさんの行く手を阻むように一体のスノーゴーレムが出現するのだったが、邪魔をするな――と、そんな感じで突き出したデメテルさんの赤く光る右手の前に呆気なく返り討ちにされてしまうのだった。
「ん、なんだ、アレは……あ、雪の中に潜ったぞ」
さて、気のせいかな?
何本モノ足を持った奇妙なピンク色の生き物が、デメテルさんの赤く光る右手の一撃よって爆殺されたスノーゴーレムの残骸から這い出てくる姿を目撃する。
ンで、ソイツはモゾモゾと雪の中に身を潜めるカタチで、俺の視界から姿を消すのだった。
「スノーゴーレムを一撃で……い、意外だわ。先生って、あんなに強かったなんて……」
「ちょ、知らなかったのかよ。お前、弟子なんだろう?」
「で、弟子とはいえ、知らないモノは知らない!」
「立ち止まるな。後ろから追いかけてきている個体もいるってコトを忘れるなよ」
「あ、ああ、ジーク。それはわかっているさ!」
むう、なんだかんだと、スノーゴーレムは他にもいるワケだ。
まあ、倒そうと思えば倒せそうだけど、ここはジークの言う通り、さっさと下山した方がいいな……というワケでダッシュだ、俺!




