外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その11
ジークが狂獣——狼の群れに対し、投げつけた赤いボールは、対象を強烈な光で一時的に行動不能にしてしまうって類のモノだったんだろうか?
とにかく、ジークはホッキョクグマとはいえ、子熊である俺は抱きかかやた状態のまま、どこかへ向かっているようだ。
なんだかんと、ザッザッザッ——と、そんなジークの足音が聞こえるしね。
「おい、もう目を開けてもいいぜ」
「お、おう、だが、さっきの光のせいで視界がボヤけているんだ……」
「ん、どうやら、あのトンネルの外へ連れ出されたみたい……」
「なん…だと…⁉」
もう目を開けていいぞってジークの声が聞こえる。
ん、アタランテの声を聞こえてくる——トンネルの外に連れ出されたって⁉
それが本当ならありがたいコトだ……よ、よし、目を開いてみるかな。
「う、太陽……まぶしい……ってことは、ここは地上? だけど、真っ白だ。何もかも……」
「何を言っているのよ? ここは地上じゃなかったら、どこだって言うの?」
「なのですよ、由太郎。あ、どうでもいいけど、エフェミスの町が見えるのです」
「う、うお、ここって山の山頂なのか?」
瞼を開いた途端、俺の双眸に映り込んだのは、雲ひとつない真っ青な天空の情景である。
ああ、どうやら本当にトンネルの外にいるようだぞ。
だが、今いる場所が問題かもしれない。
何せ、どこかの山の展望台って感じの場所のようだしね。
当然、昨晩、降ったというトンでもない量の雪の影響で、ここら辺の積雪量も凄いコトに……。
しかし、展望台としての機能は失われおらず。
そんなワケで俺達は目指すこと目的地であるエフェミスの町らしきシルエットを見下ろすコトができるワケだ……お、おお、何気に大きな町のようだぞ!
「さて、なんだかんだと、俺はエフェミスの町に用事があるんだ。そんなワケで、あの町までは一緒だ、よろしく頼むぜ」
「あ、ああ……」
ふむ、ジークもエフェミスの町へ往く予定のようだな。
そんな折に、あのトンネルの中で俺達と出会ったってところだろう。
んで、あの強烈な光を放つ赤いボールを投げつけて狼の群れを――って、そんな狼の群れは、どうなったのやら?
「そういえば、あの狼共……狂獣だっけ? 奴らはどうなったんだ?」
「ああ、アイツらなら穴の中で苦しんでいる筈だ」
「穴の中で苦しんでいる? そ、そうかぁ……」
ふと、あの狼共のことが気になったワケだ。
へ、へえ、あのトンネルの中で苦しんでいるのか……。
ジークが投げつけた強烈な光を放つ赤いボールには、対象を麻痺させる効果でもあったってコトかな?
まあ、わからんでもない。
あの強烈な光を間近で浴びりゃ目、そして脳にダメージを受けて、しばらくの間、全身が麻痺してしまいそうだしな。
「ねえ、どうでもいいけど、ここって……マグナ山では?」
「うん、間違いないね。雪の中に埋もれているけど、展望台の標識が、ここにあるしね」
「だが、少し不味い展開だな。ここは女人禁制の山だしな……」
「女人禁制? 女の立ち入りを禁じている聖地みたいな?」
「まあ、そんなところさ。ちなみに、獣人や鳥人は対象外で良かったな、アタランテ、それにアスタルテ」
「う、うん……」
「良くないですよ! 私は獣人でも鳥人でもありません。故に、この山に祀られて女神が嫉妬して……と、とにかく、早いとこ下山するのです!」
あのクロベエって黒い狐の獣人を筆頭としたエフェポスの村の魔術師達がつくったトンネルは、俺達の目的地であるエフェミスの町の近くまでは、確かに繋がってはいたけど、それと同時に、ちと厄介な場所に繋がっていたようだ。
獣人や鳥人以外の女の立ち入りを禁じる仕来りが根付く場所――女人禁制の聖地みたいな場所だったワケだしな。
ちょ、人間であるデメテルさんが何気にピンチなのでは……。




