外伝EP11 雪の女帝とホッキョクグマ その5
エフェポスの村にある郵便局は、そこそこ大きな建物だな。
この村に住んでいる数少ない人間であるデメテルさんでも普通に入れる規模だしね。
オマケに二階建ての建物のようだ……お、そんな二階へ続く階段にところに看板があるぞ。
ふむ、村の名物っぽい虹色人参のスープなんてモノを振る舞う食堂が二階にあるようだ。
それはさておき。
「やれやれ、この調子だと何も届いていないわね。オマケに荷物を送ってもくれるワケもないか……」
「はわわ、困りました。アタランテに送るように頼んだ原稿だけど、明日が締め切り日なモノでして……」
「ちょ、先生、それを早く言ってくださいィィ!」
「テヘ、忘れていましたぁ☆」
わ、忘れていたで済ませるのか、吞気だなぁ、デメテルさんは……。
明日までにどこぞの出版社に届けなくちゃいけない小説の原稿なんだろう?
おっと、それはともかく、エフェポスの村の郵便局内は村獣人達でごった返し状態である。
昨晩、降ったトンでもない量の雪(?)のせいで何も送れない上、何も届いていない状況というワケで――。
「なんで届いていないんだよ! せっかく楽しみにしていたのに……」
「おい、俺が注文した石油ストーブは、今日、届く筈なんだ。それが何故、届かん!」
「そ、そう言われても……」
「そんなご託は聞きたくねぇ! 何故、届かんのか、それが知りたいんだ!」
「つーか、昨日、降ったトンでもない量の雪のせいだろう? 普通に考えて……」
「うん、それは確かに……」
やれやれ、みんな言いたい放題だな。
昨晩、トンでもない量の雪が降ったっぽいけど、そのコトを忘れちゃいないか、コイツら……。
「うがああ、我慢できねぇ! 郵便物倉庫ン中を見せやがれ!」
「ちょ、お客様、落ち着いてください……ギャウッ!」
む、暴れ出す輩も現れたか……。
まったく、忙しない連中だぜ。
「なあ、みんなイイコトを思いついたぞ!」
「ん、イイコト…だと…⁉」
「ああ、だが、手紙や荷物を役立たずな郵便局員の代わりにエフェミスの町なんかを届ける奴を決めようって思いついたんだ」
「おお、それはいいな!」
「うむ、俺は賛同する!」
「う、なんで俺の方を見ているんだ……」
ニットキャップとセーターといった衣装を着た狐が、そんなコトを言い出すと同時に、郵便局内に集まっているエフェポスの村の連中の視線が、ズギュウウウンッ――と、この俺を標的にするかのように集中するのだった。
「いや、見慣れない奴がいるなぁと思って……」
「つーか、お前、雪の女帝様の使い魔だろう?」
「またそれか! むう、なんだよ、まったく……」
「ハハハ、疑われても仕方がないのですよ。何せ、冬に〝白い生き物〟を村の外で見かけたら、あの御方……雪の女帝の使い魔だと思えって古い言い伝えが、この村にはあるのです」
「デメテルさん、なんだよ。その古い言い伝えってのは……」
ム、ムムムッ……なんという言い伝えだ。
今の俺はホッキョクグマ……白い生き物という理由で村に伝わる古臭い言い伝えもあり、雪の女帝とかいう面倒くさい存在の使い魔とやらだって勘違いされているようだ。
「違う? ほう、じゃあ、雪の女帝様の使い魔じゃねえって証拠として……そうだな……よし! この村から一番近くて大きな町であるエフェミスへ出張って、今日、届く予定である俺達宛ての荷物を取って来てくれ!」
「な、なんだってー!」
う、なんてコトを頼むんだ、コイツら!
むう、だが、疑いを晴らす絶好の機会ではある……ど、どうする、俺!




