EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その34
兎天原にはドラゴンを冠する生物も多々、存在する。
とはいえ、大体が飛竜と呼ばれる種類である。
そんなドラゴンの中には人間や獣に化けて何食わぬ顔で暮らしているモノもいるそうだ。
まあ、連中ならありえる話である。
何せ、人間以上の叡智を誇る生物だしね。
神族――つまり神の正体は、実はドラゴンじゃないのかって説を唱えている学者もいるくらいだしね。
さて、エフェポスの村の商店街にいるメリッサ達の前に飛来したモノ――それは件のドラゴンであった。
「ええと、コイツを捕まえると三百万MGの賞金だったかな? フフフ、ヴィネ……悪いけど、毒の魔女アルラウネは、このアスタロトが捕まえる!」
「ちょ、横取りィィ⁉」
「待て、その前に、この娘は渡さないわ!」
「問答無用! ドラゴンをナメんなよ、オラァァ!」
ドラゴンはアスタロトと名乗る。
で、どうやらヴィネの知り合いのようだ――ってことは、賞金稼ぎのお仲間⁉
それはともかく、ウェスタが孤児院に連れ帰ろうとしている見た目は八歳くらいの幼女だけど、長寿のエルフというワケで実年齢と嚙み合わないロリババアと言っても間違うないアルラウネを奪おうと襲いかかってくる。
「な、なんなのよ、アイツ!」
「では、このジイが説明しましょう。あのドラゴンの名前はアスタロト、お嬢様の幼馴染にして我らの同ぎぃう者――が、昔はドラゴンではありませんでした」
「昔はドラゴンじゃなかった?」
「はい、あの方は……アスタロト様は、ある日、突然、変身したのです。ドラゴンに――」
「ん~……突然、変身した? あのアスタロトって奴は自分がドラゴンであるということを忘れていたってところかしら?」
「はい、多分、その推理の通りでしょう。なんだかんだと、人間や魔族といったモノに化けているドラゴンもいると聞きますし――」
ある日、突然、ドラゴンに変身した…だと…⁉
アスタロトって奴は、自分がドラゴンであることを忘れるくらいの年月を人間――いや、あのヴィネの幼馴染だし、魔族として生活していたんだろうか?
「中々素早いな! フン、西方で共に指名手配者扱いを受けるニャメロット王国の前王ニャーサーの部下ニャーシヴァルのように捕まえるのに手を焼かせてくれる!」
「ニャメロットの前王ニャーサーは捕まえたら一千万MGは確実にGETできる大物指名手配者じゃん! まさか、ソイツも東方に来ているワケ?」
「お嬢、東方は捕まえた場合、多額の賞金を得られる標的が多いですね。ちなみに、そのエルフの娘は毒の魔女アルラウネ――七十万MGの賞金首です」
「その通りよ、我が戦友! 兎天原東方は多額の賞金を得られる指名手配されたモノが数多、逃げ込んでいる! だけど、アレを捕まえるのは、この私だ!」
「うく、この欲張りめ!」
ニャーシヴァル……人間だった頃のニャーサーに仕えていた円卓の騎士のひとりってところか?
そういえば、ニャウェインがニャーシヴァルがどうとかって言っていた気がする。
さて、MGとは兎天原全土で使われている通貨でマーテルゴールドの略である。
ちなみに、白金、金、銀、銅の四種類の金属貨幣、それに三種類の紙幣を合わせた計七種類存在する通貨である。
「この欲張りドラゴン! 私が相手に……ウギャー!」
「は、人間風情が素手で私に戦いを挑むなど、愚の骨頂……な、何ィィ! 左腕と引き千切った筈なのに、何故、平気なんだァァァ~~~!」
「あ、私はゾンビですから、この程度では――」
「ヒ、ヒイイイッ!」
さて、ウェスタから抱きあげている気絶した状態のアルラウネを奪おうと襲いかかるアスタロトに対し、メリッサが体当たりを仕掛けるのだが、案の定とばかりに呆気なく逆襲を受け、左腕を引き千切られてしまう。
しかし、メリッサは不死身のゾンビだ。
左腕を引き千切った程度じゃ再起不能にすることはできない。
とまあ、そんなメリッサの不死身な様子に油断したアスタロトは、その巨大で物々しい姿とは裏腹な感じがする声高な悲鳴を張りあげる。
ああ、なるほどね。
コイツはメリッサのようなゾンビ――即ち、不死者が苦手なのかもしれないな。
はは、ドラゴンのクセに意外かも――。




