EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その31
人を見かけで判断しちゃいけないってヤツだな。
エセ薬剤師であり、殺人鬼でもあるゾルゴンは、如何にもメタボな太ったオッサンなんだが、まるで氷上を舞い踊るフィギュアスケートの選手のように華麗な駆け足でエフェポスの村の中心部へと向かう。
むう、なんだかんだと、放っておくと危険だな。
ゾンビ故に無事だったけど、自分のことを指差したメリッサの右手の人差し指を一瞬で爆破してしてしまった特技――毒薬秘拳とやらの使い手らしいしな。
「はあはあ……あのオッサン……足早すぎ!」
「まったく、運動不足ね! ふう、喉が渇いたわ……ん~水もうま味だわ☆」
「ちょ、自分だって噴水池の水をがぶ飲みしてるクセに……って、見失ったかも⁉」
「あうあうっ……つ、疲れたぁ……水……水っ!」
「あちゃー……メリッサも運動不足ね。アレじゃ、あのオッサンを捕まえるなんて無理かも……」
エフェポスの村の入り口周辺から噴水池なんかもある中心部の商店街までの距離は、それほど遠くはないんだけどなぁ……。
それなのに愛梨とアフロディーテ、それにメリッサは疲れ切ってしまっている……体力なさすぎ!
強引にでもスポーツジムにでも通わせたくなるぜ――と、思った俺って体育会系なのかな?
「そういえば、あのヴィネってコとそのお仲間はどこに行ったのかな?」
「あら、ゾンビのメリッサじゃん。んー……右手の人差し指が欠損しているわね。私で良ければ修復してあげようか?」
「あ、ウェスタさん。それじゃお願いします……っと、そんなことより、殺人鬼が村の中に!」
愛梨達より先にゾルゴンを追いかけて商店街へと向かったヴィネとそのお仲間はどこへ行ったのやら……。
と、麦わら帽子と真っ白なワンピースといったカジュアル格好をした黒髪の美女がメリッサに声をかけてくる――ウェスタだ。
ちなみに、彼女の胸元から一匹の真っ白の蛇――サマエルが顔を出している。
「面白そうね。捕まえたら賞金が貰えそう☆」
「え、その発言は捕まえようって感じ?」
「その通りよ。サマエルもいるし、生死に問わずって感じで――」
「毒蛇の私がかじったら死んじゃうかもね。それでもいいなら――」
メリッサの話を聞いて興味が湧いたのか、キュピーン――と、ウェスタの両目が光った気がする。
むう、ゾルゴンを捕まえる気⁉ まさに、その通りのようだ。
「もしかして、件の殺人鬼って、あの太ったおじさん?」
「あ、はい……って、よくわかりましたね」
「適当に言ったつもりだったけど、まさかビンゴとは意外かも――」
「それより、あのオッサンったらソフトクリームを食べているわ。まったく、余裕ぶっこいちゃってます」
「なんだかんだと、見失ったのは一瞬みたいね……ん、無駄に長い前髪のせいでどんな貌なのかわからない不気味な女と一緒だわ」
商店街のソフトクリーム屋の店先でゾルゴン発見――なんだかんだと、一瞬だけ見失った程度のようだ。
さて、そんなゾルゴンと一緒にいる無駄に長い前髪で貌が見えない不気味な女は、もしかして毒の魔女アルラウネでは⁉
ちょ、類は友を呼ぶって感じの組み合わせなのか――。
「嫌なニオイがするわね」
「嫌なニオイ?」
「ええ、ありていに言うの毒物が放つ独特のニオイ……それが、あのオッサンと不気味な女のどっちからもプンプンと漂っているわ」
「そ、そうなんだ。ウェスタさんの鼻って犬並みですね」
「う、そう言われると複雑な気分になるわね」
「ねえ、それよりどうするの? ヴィネ達がいないけど、アイツを捕まえる?」
「当然です! 私達だけでなんとかしましょう!」
「ヒュー! メリッサさん、もしかして復讐に燃えてます?」
「あ、ヴィネとシュルツ、それに執事のジイ! 先に向かったクセに、今頃、登場ってワケェ……え、ゾルゴンのもとへ向かったわ。私達も――」
メリッサ達より、先に商店街へ向かった筈なのになぁ……今頃、ヴィネ、シュルツ、執事の爺さんがやって来たようだ。
多分、道に迷ったんだろう――うーむ、エフェポスの村の中には、迷うような複雑な通路とかはない筈なんだがなぁ。
まあ、それはともかく、ヴィネ達がソフトクリーム屋のところにいるゾルゴンとアルラウネのもとに猪突猛進とばかりに向かうのだった。




