EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その28
見た目は若いが、実年齢は数百歳のエルフだとか、実は吸血鬼であるとか――。
とにかく、メイヴって奴について様々は憶測が飛び交うものの何もかもが謎に包まれている。
で、わかっているのは殺し屋というだけ……かな?
うーむ、毒の魔女アルラウネは何とか……一時的に再起不能にできたけど、メイヴって奴までそうもいかない気がする……いや、無理かもしれない。
「ねえ、訊きたいことがあるんだけどさ」
「き、訊きたいこと⁉」
「うんうん、このニャーサーって、このヒゲのおじさんを探しているんだけど知らない? とある人物から殺害を依頼されていてさぁ☆」
「「「さ、さあ、知らないなぁ。誰、このオッサンって感じだよ」」」
ちょ、やっぱりニャーサーの命を狙っているっぽいぞ⁉
人間だった頃のニャーサーの写真を俺達の目の前に見せながら、ニタニタと弧を描く三日月のような笑みを浮かべているし――。
さて、この場を切り抜けるため俺達は声をそろえて嘘を吐くのだった。
「え、知らないの? うーん、それは困った。オマケに面倒くさい連中に追いかけられていて……わ、来た!」
お、俺達が声をそろえて言った嘘を一切、疑うことなくメイヴは信じたぞ!?
ああ、面倒くさい輩に追いかけられているらしいから、それで深く考える余裕がなかったからなのかも――ん、足音が聞こえてきたぞ。
面倒くさい輩ってのがやって来たのかもしれないな。
「あああ、ウミコ様だ! ウミコ様、その人間を捕えてください!」
「むう、魔術師達か!」
メイヴが面倒くさい輩と呼んでいるモノ達は、赤々と輝く兎のオブジェがついて杖をたずさえた兎獣人達である――ん、五、六羽くらいいるな。
で、ウミコ様って呼んでいるあたりから味方のようだ。
「あの兎達は何者なんだ?」
「うむ、わらわが最近、創設したギサウ魔術警備隊の連中だ。保安官らと共に村の治安維持を担っている」
「ふーん、そんなかぁ」
流石はエフェポスの村の古老であり、重鎮だな。
まあ、そんなワケでウミコが創設したギサウ魔術警備隊の連中が、メイヴを追いかけて来たワケだ。
「へえ、コイツらって所謂、正義の味方ってワケね。だから放火事件を起こしたあたしを捕まえようと企んでいるね」
「そりゃ当然だ。放火なんて真似をしたんだしな!」
「え、その前に放火って悪いことなの? 子供の火遊びみたいなものよ、クスクス☆」
「ちょ、お前っ!」
「フフフ、とにかく、私は捕まらない……絶対にね☆」
「な、なんだと⁉ う、うわああ、なんだっ……ギサウ魔術団の魔術師達が突然、倒れた⁉」
放火は悪いことなのか⁉
と、メイヴが訊いてくる――ちょ、コイツの思考ってどうなってるんだ⁉
放火とは悪行だ!
故意に、また悪意をもって建造物や自然保護区等に火を放つことだしな。
だが、メイヴは子供が起こした無邪気な悪戯程度のことだとしか思っていないようだ……この外道!
さて、それはともかく、ギサウ魔術団の魔術師達が、突然、白目を剥いてひっくり返る……な、何が起きたんだ⁉
あ、ああ、中には口から大量の泡を吹いているモノも……。
「ど、毒かッ……う、熊のぬいぐるみが赤い霧のようなモノを吐き出している! みんな離れろ!」
く、メイヴの得意技も毒系⁉
ブシャアアアッ――と、彼女が抱いている熊のぬいぐるみの口から赤い霧状のモノが吹き出している!
ギサウ魔術団の魔術師達が突然、白目を剥いてひっくり返ったのは、コレを吸ったから――く、これじゃ迂闊に近寄れないな。
俺達も二の舞を食らってしまう!
「ニャハハハ、追っ手は再起不能。私を捕まえようとするなら、アナタ達も同じ目に遭うわよ」
「む、むう……」
あの人形をどうにかしないと近寄れないぞ。
さて、どうしたモノか――。
「おい、わしの家の近くでイザコザを起こしおって! オマケに悪臭が充満して眠れないじゃないか!」
「ギャ、ギャフッ!」
「お、おお、リュウコ良いところに来た!」
え、リュウコ⁉
とにかく、そんな怒鳴り声が聞こえてくると同時にメイヴの身体が、猛烈な突風に吹っ飛ばされるかのようにギュルンと弧を描きながら宙を舞うのだった――お、毒の霧と言っても間違いない赤い霧状のモノを吐き出す熊のぬいぐるみを手放したぞ!
「とっしゃ、今だ……〈爆風〉のカード!」
俺は透かさず魔術カード〈爆風〉を使い熊のぬいぐるみをバラバラに四散させる――よし、これでメイヴを捕らえられる!
「うう、何が起きたワケ……ウギュッ!」
「おお、今度はメイヴが地面に……姿の見えない巨大な何かが踏み潰された?」
今度は巨大な何かがメイヴの身体を踏み潰したのか⁉
ズズーンッ――と、突然、メイヴの身体が地面に埋まったことだし――。
「ん、小さなドラゴン?」
ん、中型の犬くらいの大きさの黒いドラゴンが現れる。
コイツがリュウコ?
で、メイヴを弾き飛ばし、オマケに踏み潰した巨大な何かの正体なのか?
だが、その姿から割に合わないですけど――。




