EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その27
「アイツは毒の魔女アルラウネ! 我が王を狙う殺し屋のひとり……ん、もうひとりの殺し屋であるメイヴはいないようだ」
「ニャウェイン卿、アイツは私達を助けてくれた村の魔術師達から逃げている最中じゃないですか?」
「あ、ああ、そうだったな。やれやれ、この村は消火魔術とやらを使う防災専門の魔術師が常駐しているようだな」
「ハハハ、無論のこと!」
「それはともかく、アイツは俺と同じ魔女の仲間じゃん……と、それはともかく薄気味が悪い女だ」
うーむ、白ずくめの薄気味の悪い女だ。
それが第一印象である。
地面に届きそうな漆黒の後ろ髪。
そして無駄に前髪も長いせいか、どんな容貌なのか、まったく見当がつかず……。
故に年齢もわからず。
とにかく、こういう輩はヤバい雰囲気をバリバリと身体の外に放出しているんだよなぁ。
「毒の魔女アルラウネねぇ、如何にもヤバそうな相手だな……よし、本物か訊いてみよう」
「ちょ、兄貴!」
「あ、ああ……もしかして毒の魔女とか言われている魔女アルラウネ氏だったりするぅ?」
「兄貴、その質問はストレートすぎるっす!」
「キヒヒヒ……うん、私が毒の魔女アルラウネですが何か問題でも?」
「ド、ドヒャー! ビンゴっすゥゥゥ~~~!」
と、恐れを知らないのか、それとも空気が読めないのか?
とにかく兄貴が、そうストレートに訊くのだった――え、ご本人だって即答した⁉
ちょ、やっぱりビンゴかぁ!
「さて、私の名前などどうでもいいのです。それよりニャーサーと言いましたよね、キヒヒヒ……」
「さ、さあ、そんなこと言った覚えがはないぞ」
「嘘を言うと後悔しますよ、キヒヒヒ……」
「う、うおー! 両目が真っ赤に光っているっすぅ!」
ニャーサーだなんて言っちゃいないぞ――と、嘘をついたところで後の祭りだろう。
すでに聞かれてしまっているワケだし――う、アルラウネの両目が無駄に長い前髪に隠れて見えない容貌の代わりとばかりに、そんな無駄に長い前髪の隙間から煌々と不気味な赤い妖光を放っている!
赤い眼光の意味……もしかして怒っているのか⁉
赤い色、そして赤い光は危険信号の筈だし――。
「私は嘘吐きが大嫌いです。故に、これ以上、嘘を吐くと、この辺一帯を毒で満たしますよ、ヒヒヒ、イヒヒヒ……」
「ほう、やってみるがいい!」
「ちょ、ウミコ!」
私は嘘吐きが大嫌いねぇ……って、これ以上、嘘を吐くと今、俺達がいる商店街を毒で満たす…だと…⁉
そんなアルラウネの脅しに対し、やってみるがいい――と、ウミコが言い放つのだった。
ちょ、何を言い出すんだ……な、何かしらの意図があるのか⁉
「キヒ、キヒヒヒ……面白いことを言うわね、兎ちゃん。それじゃ望み通りにしてあげるわ!」
「ちょ、やめ……やめろォォォ~~~!」
「落ち着け、キョウ。奴は自爆する。まあ、見ているんだ」
「え、えええ、自爆する⁉」
「ウミコ様の言う通りになるから、ここは冷静に状況を見ているんだな、キョウ」
ウミコに挑発されたアルラウネの幽鬼のような身体から、モワワアアアッ――と、紫色の煙が吹き出す!
アルラウネは毒の魔女と言われている――お、お得意の毒魔術を発動か?
だけど、そんなヤバい状況なのにウミコやウクヨミは冷静だ……え、自爆する⁉
「あ、あれぇ~? 毒魔術が拡散しな……グ、グギャアアア、身体の力が抜けりゅぅぅ!」
「お、おい、あの幽霊女が苦しみ出したぞ⁉ ど、どういうことだー!」
「あ、ああ、なるほど! あのアオイってガングロギャルと同じパターンか――」
お、思い出したぜ! ここは商店街は〝憤怒〟に反応し、特殊能力を無力化するパワースポットであることを――。
ああ、だからウミコはアルラウネを挑発したワケだ。
「う、ううう、毒が逆流するぅぅ……イヒ、ヒヒ、ウヒヒ……アウッ!」
「アルラウネが仰向けにぶっ倒れたぞ!」
「今のうちに、ここから退散だ!」
毒が逆流する? ま、まあ、とにかく、アルラウネが仰向けにぶっ倒れている隙に商店街から離れよう。
「よし、あそこへ向かうぞ!」
「え、どこへですか、ウミコ様?」
「わからぬか、商店街の近場にあやつの屋敷があるだろう?」
「あ、リュウコ様のとこですね。あそこならアルラウネとかいう奴が追いかけてきても大丈夫ですね、ウミコ様」
ん、リュウコ? 何者かは知らないけど、ウミコとウクヨミの後について行ってみよう。
この先というか、すでに戦闘不能の状態から復活してそうな気がするアルラウネが追いかけてきても大丈夫っぽいようだ。
「ねえ、君達、どこへ行くのかな……かな?」
「わ、熊のぬいぐるみを抱いた赤い髪の人間の女のコが舞い降りてきた!」
「そこの木の上にいたっぽい? その前に何者?」
「き、気をつけろ! ソイツは殺し屋のメイヴだ! そして商店街でボヤ騒ぎを起こした張本人だ!」
「な、何ィィ! ニャウェイン卿、それは本当か……な、ならば、コイツは余の命を狙うモノのひとりか!」
な、なんだ、リュウコとやらの屋敷に向かう途中に生えている一本の木――多分、樫の木かな?
とにかく、そんな樫の木の上から、熊のぬいぐるみを抱いた赤い髪の人間の女のコが、俺達の目の前に飛び降りてくるのだった――ん、殺し屋のメイヴだと⁉
ちょ、あのアルラウネの続くカタチで面倒くさいモノと遭遇してしまったぞ!




