EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その26
「ん~……ここのソフトクリームは最高だなぁ☆」
「お前、いつもソレを食ってるな。甘いモノばっか食ってると太るぞ、クククク……」
「五月蠅い! アンタだってメイプルシロップを大量にぶっかけたパンケーキを毎日のように食べているじゃん! ほら、この駄肉がデブの証拠だ!」
「ひゃ、そこは腹の肉じゃなくて胸だ!」
「お、お前らいい加減に……ん、なんだ? 騒ぎが起きているぞ。行ってみようぜ」
小フレイヤと大フレイヤは食べ物のことで、よくケンカをしている気がするんだよなぁ……。
ふたりとも甘いモノが大好きなのに、それをネタにお互いを馬鹿にし合っているから、実に滑稽な光景である。
おっと、それはともかく、何やら今、俺達がいるエフェポスの村の商店街で何か起きたらしい。
「ウミコ様、ミドリウサヒコの喫茶店の裏手にある路地裏の木材置き場でボヤ騒ぎが起きたそうです!」
「ボヤ騒ぎだと! まったく、この村は木造の建物は多い故、火事に発展したら一大事だぞ!」
「うーむ、木造の建物は火に弱いからなぁ……って、お前ら、一緒にいたのかよ!」
「おい、とにかく、ボヤ騒ぎが起きたっつうミドリウサヒコの喫茶店にでも行ってみようぜ」
「あ、兄貴、待ってほしいっす!」
ウミコとウクヨミの奴、いつの間に俺達と一緒に行動を――と、ボヤ騒ぎが起きた⁉
で、そんなボヤ騒ぎが起きたのは、ミドリウサヒコの喫茶店の裏手にある路地裏の木材置き場……ん、ひょっとして⁉
「あ、煙だ……路地裏から煙だ! おい、何が起きたんだ!」
「兎王様! は、はい、詳しくはわかりませんが、この村にやって来た人間の冒険者が火を吐くぬいぐるみを使って暴れまわったそうです」
「とりあえず、火は消しましたが放火魔は逃走中らしいです」
「むうう、なんて迷惑な……捕まえて牢屋にぶち込んでやる!」
ウミコの別名は兎王、エフェポスの村の古老のひとりであると同時に、エフェポスの村に住む兎獣人の頂点に立っている存在でもある。
と、路地裏で火を吐くぬいぐるみを使って暴れまわった人間の冒険者とは、あのメイヴでは⁉
それじゃ路地裏の木材置き場に身を潜めていたニャウェインとリスキチは――。
「まったく、ぼや騒ぎで済んで良かったですね、ウミコ様」
「うむ、それもこれもエフェポス大火の教訓が活かされている証だな!」
「エフェポス大火?」
「キョウは新参者である故、知らなくて当然だろう。エフェポス大火とは――」
「大体、三百年くらい前に起きた大火事のことだろう? その大火事のせいで、当時のエフェポスの村の住人の約七割が焼死したって伝説が残っているみたいだぜ!」
「おお、そうなのか、兄貴?」
「む、むう、ハニエル! それはわらわが説明しようと思っていたのに……」
「ま、そんなエフェポス大火がきっかけとなり、火は早急に消す――という防災意識が芽生えた連中が消火魔術ってモノを開発してなぁ」
「う、うぬぅ、また先に説明されてしまった……」
「ま、まあ、とにかく、それで路地裏の木材置き場で起きた火事は、ボヤ騒ぎで済んだってワケね」
ふーん、エフェポス大火ねぇ。
そんな大火災が三百年くらい前に起きたのかぁ――。
そりゃ、防災意識も高める筈だ。
なんだかんだと、消火魔術とやらが開発されるくらいだし――。
「う、うはぁ、煙たかったぉ!」
「危なく焼け死ぬところだった!」
そう言いながら、ミドリウサヒコの喫茶店の裏手の通路――路地裏から勢いよく飛び出してきたのは、耳のタレた茶白の猫と燕尾服を着た栗鼠である。
ん、ニャウェインとリスキチ⁉
おお、どうやら無事だったみたいだな!
「ん、見かけない顔だな。お前らは冒険者か?」
「あの栗鼠はともかく、兎天原の北方や西方……人間の領域に住んでいる連中が身に着けているような鎧を着ていますよ、あの猫……」
「うむ、東方とは意匠が違うからな」
「その前に、お前らは何者? ボヤ騒ぎに現場から出てきたけど、まさか……」
「む、むう、そこのノッポの姐さん、私達を放火犯と思っちゃいませんか? それは勘違いですぞー!」
「リスキチのいう通り勘違いだ。このニャウェイン、天地神明に誓って違う断言しよう!」
「ニャウェイン⁉ 貴公は、あの円卓の騎士のひとりであるニャウェイン卿なのか! 余だ、ニャーサーだ! まさか忘れてはいないだろうな?」
「ニャ、ニャーサー⁉ 我が王なのか……し、しかし、何故、猫の姿に⁉」
「それは余も同じだ。ニャウェイン卿、何故、貴公も余と同じく猫の姿などに――」
ニャウェインの探し求めていた〝我が王〟とやらはニャーサーのことだったのね。
さて、何度か説明したとは思うけど、兎天原東方及び南方には、古代世界において禁忌王ハビルフという迷惑な王が拡散させた広範囲型の呪い――獣化の呪いが、流石に弱まってはいるが未だに消えることなく蔓延している。
まあ、弾き返すほどの魔力を持つモノならともかく、生まれつき呪い等を弾き返せる高い魔力を持っていないモノが多い人間の大半は、件の獣化の呪いを受けて何かしらの動物と化してしまうワケだ。
ま、そんな理由からニャーサーは猫の担ってしまったワケだ。
無論、ニャウェインが猫の姿をしている理由もニャーサーと同じなのだろう――いや、間違ってはいない筈だ。
「キヒヒ……今、ニャーサーって言いませんでした?」
「わ、わあああ、幽霊!」
「小フレイヤ、落ち着け! ソイツは幽霊じゃない。無駄に長い前髪のせいで顔が見えないだけの不気味な人間だ!」
「不気味って酷い……でも、なんかホメられてる気がしてきた☆」
「ホ、ホメてねェェェ~~~!」
い、いつの間にッ――とばかりに、無駄に長い前髪のせいで容貌がまったく見えない不気味な白ずくめの女が、ドーンと小フレイヤの背後に、まるで古井戸から這い出してきた某幽鬼のように立ちはだかっている……う、コイツは確か毒の魔女アルラウネでは⁉




