EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その25
兎天原の支配国家であるマーテル王国からの独立を宣言し、次々と新国家が建国されている兎天原西方には、いくつもの国を支配下に治める強国もあるって話なのに、何故か宣戦布告をし、マーテル王国の本土こと北方などに攻め入って来ない理由は、多分、聖地アンザスの存在なんだろなぁ。
あそこが特異点となっている筈だろう。
何せ、異世界と繋がる場所であるし――。
そんなワケで異世界の未知の技術をマーテル王国が得ている――という情報を皆、恐れているのかもしれない。
さて。
「ありゃラミアの幼生ですね」
「ラミア? 上半身が人間、下半身が蛇っていう兎天原東方現在の怪物のことか、リスキチ?」
「その通りですよ、ニャウェイン卿。我々の故郷である西方では絶対に見かけることないナマモノです」
「うむ、だけど、歌は上手いな。心に染み入るモノがあるな」
「ちょ、今、私のことをラミアって言ったでしょう?」
「「ギョッ!」」
ラミアは確かに兎天原東方原産の半人半蛇のナマモノである。
が、大きさはサマエルの倍である。
それに下半身は間違いなく二メートルはある大蛇のモノだしね。
と、そんなラミアの幼生体呼ばわりされたサマエルが、ニャウェインとリスキチに対し、食って掛かるのだった。
うーん、くだらないことを気にするんだなぁ……。
「お客さん、私はラミアではありません! それだけは言っておきます!」
「え、サマエルってラミアじゃなかったの?」
「ちょ、ウェスタさん!」
「いあいあ、ホントにラミアかと思ってたのよ、ウフフ☆」
「それより、私のことをラミア呼ばわりしたお客さんがいなくなっているわ!」
「あらホント……」
とまあ、サマエルとウェスタが相槌を打っている間にニャウェインとリスキチは、喫茶店からそさくさと逃げるように立ち去るのだった。
「ふう、面倒くさい輩にかまってはいられませんね」
「あ、ああ……とりあえず、ニャーシヴァル卿と合流して我が王を探すとしよう」
「ですね。それが一番……ん、あれは⁉ ニャウェイン卿、一旦、隠れましょう!」
「ん、どうした、リスキチ……む、むう、アイツらか! 仕方がない……隠れるぞ!」
ニャーシヴァル? ニャウェインとリスキチの仲間?
それはともかく、喫茶店の外に出て間もなくニャウェインとリスキチは、シャッ――と、何かに恐れるかのように素早く物陰に身を潜めるのだった。
「ア、アイツは確か毒の魔女アルラウネ! 一緒にいるのは殺し屋のメイヴ!」
「ニャードレット卿、或いは魔女モルニャンが差し向けた刺客として、この村にやって来た筈だ。むう、早々と我が王を保護しなくてはいけなくなったな!」
毒の魔女アルラウネと殺し屋のメイヴ⁉
物陰に潜むニャウェインとリスキチの視線の先には、無駄に長い前髪のせいで、どんな顔をしているのか、それがまったくわからないまるで幽霊のような女がいるぞ。
あ、ああ、ついでに大きな熊のぬいぐるみを抱いた小柄な赤い髪の女のコが一緒だ。
あのふたりが、件の魔女アルラウネと殺し屋メイヴなのか⁉
「しかし薄気味の悪い女ですね。あのアルラウネって魔女は――」
「薄気味が悪い上、厄介だ。ありとあらゆる毒に精通しているらしいからな。無論、お得意の魔術も禁呪指定されている毒魔術だ。一方でメイヴはよくわからん。殺し屋ということ以外は謎の包まれているからな」
むう、ニャウェインとリスキチの会話から考えると、魔女アルラウネより殺し屋のメイヴの方が危険度が上のような気がしてきたぞ。
殺し屋ってこと以外、謎というのが引っかかるしなぁ……。
「うにょ、誰かにウワサをされた気がするぅ☆」
「「――ッ‼」」
ズギュウウウッ――と、自分のウワサをするモノ達ことニャウェインとリスキチの気配を察知したかのように、赤い髪を吹き抜ける風になびかせながら、そんなニャウェインとリスキチが身を潜める物陰の側に殺し屋のメイヴが迫り来る!
「アルェ~……誰もいない? 私のウワサをする声が聞こえたんだけどなぁ?」
(じ、地獄耳というヤツだな)
(で、ですね。とりあえず、いなくなるまで、ここに隠れていましょう。人間には絶対に入り込めない場所ですしね)
「あ、やっぱり! 今、声が聞こえた!」
(う、小声でも喋れんな。まったく、なんて地獄耳だ!)
地獄耳とは厄介だな、やれやれ。
さて、ニャウェインとリスキチが身を潜める場所は、サイズ的に人間であるメイヴが入り込める余地がない場所である。
何せ、先ほどまでいた喫茶店の裏――商店街の路地裏にある山のように積んである材木のわずかな隙間というワケだしね。
「うーむ、声が聞こえたし、オマケに気配を感じるけど、姿が見えない……よーし、炙り出すか☆」
と、メイヴの口許に三日月のように弧を描く不気味な笑みが浮かぶ――炙り出す…だと…⁉




