EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その24
兎天原のド田舎地方こと東方は、人跡未踏の魔境と言っても間違いない密林や高山、ウサルカ文明のモノを筆頭とした古代遺跡等が数多く残る冒険者と呼ばれるモノ達、それに未だに解明されていない古代文明の謎を解き明かそうと目論む考古学者なんかには、まさに幻想世界である。
オマケに、俺――死霊使いキョウが本来いるべき世界では、ドードーとかジャイアントモアを筆頭とした絶滅動物も数多く生息している。
東方だと、ごく少数だけど、恐竜も確か生息していたかなぁ……。
さて、それはともかく、まさに幻想世界と言っても間違いない兎天原東方に、ひとりの男が訪れる。
この地に逃れてきている筈であるかつての主君を探すため――そして守護するために。
「おおう、この本は…この絵本は魔術師エイボンの絵日記⁉ なんというレアな絵本が、ごくごく普通の喫茶店の中にあるんだ!」
と、鎧兜、そして一本の長剣をたずさえた喋る両耳のタレた茶白の猫――スコティッシュフォールドは、驚愕の声を張りあげる。
ああ、エフェポスの村には、他の地方ではレアモノ扱いの本が数多く残っているらしい。
トンでもなくおぞましい内容から人間の領域――兎天原北方&西方で発禁モノとして焚書処分になった危険な本も古本屋へ行けば普通に手に入る場合があるらしい。
故に、そんな本を求めてやって来る好事家もけっこういるんだよなぁ……。
「ああ、見つけましたよ、ニャウェイン卿! まったく、古本屋にいると思ったら、いつの間に隣にある喫茶店に移動してたんです!」
と、燕尾服を着た喋るシマリスが駆け込んでくる――ん、ニャウェイン卿だって⁉
「悪い悪い、リスキチ。古本屋で本を読み漁っていたらついつい眠気が――ま、そんなワケで眠気覚ましにとばかりに、この喫茶店に来たんだ」
「は、はあ、そうでしたか――と、それよりも大変です! ニャードレットが差し向けた刺客が、何人もこの村の中に潜んでいるようです!」
「むう、やはりか! やはり、この村には我が王が隠れているのかもしれん!」
「ですね、ニャウェイン卿! 早く探し出さないと大変です!」
「うむ、それはわかっている。あ、喫茶店の奥にある舞台上に誰かあがってきたぞ。な、何、聖歌を歌う蛇だと⁉ ほう、きになるじゃないか!」
「あ、ああ、ニャウェイン卿……ったく! 本気で探す気があるのですか、あの御方を――」
喋る両耳のタレた茶白の猫ことスコティッシュフォールドの名前はニャウェイン、そして燕尾服を着た喋る栗鼠の名前はリスキチ。
で、後者はニャウェインに仕える執事ってところだろう。
さて、そんなニャウェインと執事のリスキチがいる喫茶店の奥には、小さな舞台があるようだ――ん、聖歌を歌う蛇が舞台上にいるだって⁉
「まあ、たまにはハメを外すのも……ん、白いワンピースと麦わら帽子をかぶった美女が舞台の上にいるが聖歌を歌う蛇は、一体、どこに?」
「ニャウェイン卿、あの女の人はウェスタさんという方のようです――で、件の聖歌を歌う蛇……サマエルは、どこには……あ、いました! む、イヤらしい蛇ですなぁ、ウェスタさんの胸元から顔を出していますし……」
件の聖歌を歌う蛇とは、あの真っ白なキングコブラのサマエルのことだったか――。
で、一緒にいる白いワンピースと麦わら帽子といったシンプルかつ素朴な格好をした美女は、俺の他に魔女と呼ばれることもあるウェスタのようだ。
「サマエル、練習した通りに歌えばOKよ」
「よ、よ~し、聖地アンザスにいる連中に教えてもらった聖歌を……と、その前に……えいっ!」
「お、おお、あの蛇が人間に変身したぞ⁉」
「だけど、上半身だけですね。オマケに大きさも蛇の姿の時にまんまです」
サマエルは俺と同じ異世界からケモニア大陸のど真ん中にある超広大な盆地こと兎天原にやって来た同胞だった筈だ。
で、聖地アンザスってところは、様々な異世界と繋がる場所である。
そんなワケであそこへ行けば、本来いるべき世界の情報を得られる筈だ。
当然、聖歌を含めた〝歌〟の類も――と、サマエルが人間の姿に変身する。
人化の法を行使したのか――あ、でも、失敗したのか⁉
大きさは蛇の時のままだし、オマケに上半身が人間、下半身は蛇のまんまなんだよなぁ……。




