EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その23
うーむ、当時の高名な奴らもそうだが、五百年前の魔術師達は物好きだなぁ。
五百年前当時から特に変わらないド田舎である兎天原の東方の村――エフェポスの村に一堂に会し、魔術界の今後についての取り決めを行うとはねぇ……。
ああ、俗にエフェポス魔術会議って言われているイベントの話なんだが、今でも脈々と受け継がれているんだよなぁ、件のエフェポス魔術会議で取り決められた魔術の使用方法なんかが――。
そんなワケで魔術絡みの事件を取り締まる警察のような連中もいるワケだ。
お、俺は死霊使いだけど、まだ職務質問とかは受けてないぞ!
まだギリギリセーフってところだからな――いや、活動の拠点であるエフェポスの村がド田舎であるが故、目をつけられていただけかもしれん。
だけど、エフェポスの村にやって来る冒険者の中に紛れていそうで怖いんだよなぁ……。
年々、冒険者の数が増えているってウミコが言っていたし――。
と、それはさておき。
「ところでひとつ訊きたいことがある。モルニャンは東方へ来ているのか?」
「俺はそんなことを知るワケがねぇだろ! モルニャン様は部下を介し、頭目の身柄についてどうのこうのって指示してきたからな」
「むう、あの魔女は部下を介し、お前らに命令を?」
「ああ、多分、ソイツらは、この村ん中にいる筈だぜ。確か二人組の――人間の女だったと思うぜ」
「ん、もしかして、あの二人組のことじゃないっすか?」
「マルタとアオイだっけ? まだ魔女モルニャンの部下かはわからんけど、十分、可能性はあるな」
ふむ、ヨーヘイン達グランベリー盗賊団の連中に現在、囚われの身にある頭目を解放する代わりにニャーサーを捕らえるように――と、魔女モルニャンは部下を介し、命令したようだ。
ん、そんな魔女モルニャンの部下というのは、あのマルタとアオイとかいう二人組の女の可能性があるなぞ。
アイツらもニャーサーを捕らえようと目論んでいた筈だし――。
「ヨーヘインとやら! その二人組がどんな奴らなのかを語ってもらうぞ! 語らぬ……そう答えるのなら、余の爪がお前の顔面をバリバリと引き裂く!」
「む、むう、とりあえず、ここにいれば命を奪われる心配はないが、猫に目をつけられた鳥籠の中にいる鳥を気分を垣間見たぜ……わ、わかった。語るから、その爪を引っ込めてくれ!」
「うむ、素直でよろしい。では、早速、語ってもらうぞ」
「お、おう、ひとりは妙にハイテンションな赤い髪の十四、五歳の女のコだったかな? で、もうひとりは根暗な感じがする長い前髪で顔が見えない不気味な女だった……」
さて、ニャーサーがギャキィ――と、左右の前足の鉤爪を展開させながら、小さな子狐と化したヨーヘインが押し込められている鳥籠の中に、そんな鉤爪を展開させた左右の前足を交互に出し入れする。
脅している――いやいや、例の二人組の詳細を聴取ってワケだ……ん、ヨーヘインが語る魔女モルニャンの部下の容姿が、あのふたりとは違わないか⁉
いや、絶対に違うな。
マルタは修道女、アオイはガングロギャルって感じの姿だったしな。
「ついでに訊こう。ソイツらの名前は知っているか、ヨーヘインのとやら? ソイツらの容姿を聞いてピンとな……で、なんとなくだが見覚えがあるのだ」
「ん、知り合いに?」
「知り合いであるものか! 見覚えがあるソイツらは兎天原西方じゃ有名な殺し屋だからな」
「こ、殺し屋……つまり暗殺者ってことか⁉」
魔女モルニャンの部下は、兎天原西方で有名な暗殺者⁉
魔女モルニャンの共謀者――ニャーサーの息子ニャードレットは、ニャーサーを捕らえること以外に暗殺も同時に企んでいるようだ。
「なんだか敵だらけっすね」
「む、むう、余の首には多額の賞金がかかっているからな」
「ほう、多額の賞金ねぇ……」
「う、うお、余を差し出そうと一瞬でも思っただろう!」
「そ、そんなことはないぞ、うんうん」
「うーむ、なんだかんだと気の短いニャードレットのことだ。恐らく、すでに兎天原の東方にやって来ている筈だ。そして魔女モルニャンもきっと――」
さて、ニャーサーを捕らえるor暗殺を目論むモノ達のリーダー格であるニャードレットや魔女モルニャンが、雨天原東方にやって来ている可能性は高いだろう。
すでにエフェポスの村の近くまで迫って来ているかもしれないな。
「あ、そういえば、先日だったかな? ニャウェインという騎士を自称する猫が、ニャーサーがいないかって、ここへ訪ねてきたことを思い出したぞ。ん、そんなニャーサーとは、そこにいる王冠とマントを羽織った白い猫のことか?」
と、人間の姿からパンダみたいな白と黒のツートンカラーの兎ことダッチの姿に戻ったウクヨミが、そう思い出したかのように言い出すのだった。
「ニャウェイン⁉ お、おお、円卓の騎士のひとりではないか! むう、奴も余を捕らえようと目論んでいるのか!」
「さあのう。だが、我が王を守護するために来た――とか、そんなことも言っていたぞ」
む、ニャウェインとやらは円卓の騎士のひとり⁉
円卓の騎士とは、ニャーサーに仕えていたニャメロットって国の重鎮では――。
そして我が王を守護するためにやって来た――と、言っていたってウミコが語っているあたりから、にもしかすると〝敵〟ではないのかもしれないぞ。




