EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その21
見た目はタダの真っ黒なネザーランドドワーフという兎の一種ではあるが、人間の姿に変身できる上、人跡未踏の地、それに未発掘状態の古代遺跡が数多く点在する兎天原東方全域の調査や冒険の拠点として利用するモノが多いせいか辺境の村ながらも活気に満ちあふれるエフェポスの村の有力者のひとり……いや、一羽であるウミコの屋敷は広い。
それが例えば別邸であっても――と、そんなウミコの別邸と言った方が正しいかもしれない市場の一角にある屋敷の二階は、猫と狐であふれている。
いや、正確なところ兎天原西方にある国のひとつであるニャメロットの王を自称するニャーサーという真っ白な猫とグランベリー盗賊団の副団長であるヨーヘインの分身なんだが――。
とにかく、分身を出現させすぎだ!
特にヨーヘインは、そんな分身を出現させすぎたせいで身の危険に晒されてしまっている。
分身の術の副作用とやらのせいで――。
「うおりゃあああっ!」
「お、おい、まだ分身を出現させるのかよ!」
「ヨーヘインとやら、これ以上、分身を増やすな!」
「黙れ! 何が副作用だ! 身体の首から下の部位が透けて見えるという幻覚を見せて俺を惑わそうだなんて馬鹿な真似をする!」
「幻覚じゃないぞ。本当に、これ以上、分身を増やしたら、お前は消えてしまう!」
「嘘を吐くな! 俺を騙すなァァァ~~~!」
ヨーヘインは、さらに分身を増やす。
わお、五十体は確実にいるぞ――もはや軍隊と言っても間違っていない数だ!
「まったく、余は知らんぞ。せっかく、分身の術を使える同士というワケで忠告してやったというのに……」
「な、なあ、分身の術を使い過ぎるとホントに術者が消えてしまうのかよ!?」
「うむ、それが分身の術の副作用の怖いところなのだ」
「ふ、ふええ、使い過ぎると怖いことが起きるのね……」
「さて、分身の術の使い手をワンホールのチーズケーキに例えるとしよう」
「チーズケーキ大好き☆」
「兄貴、ふざけないで聞くっす!」
「そんなチーズケーキを皆で切り分けて食べたらどうなるかわかるだろう?」
「当然、そんなワンホールのチーズケーキはなくなってしまうに決まっているじゃないか」
「うむ、正解だ。分身の術は、その原理と同じなのだ。即ち、使い過ぎると術者本人が消えてしまう――という副作用があるんだ!」
「「「な、なんだってー!」」」
分身の術の副作用についてニャーサーが語る。
うーむ、使い過ぎに注意しなくちゃいけない術だなぁ、ホント……。
ん、それじゃヨーヘインの奴は分身の術を使い過ぎて〝消えてしまう〟一歩手前の状態なのかも――。
「じゃ、じゃあ、ニャーサー、アンタも危ないんじゃないのか?」
「うむ、そこら辺は大丈夫だ。分身は十体程度なら己が魔力で事足りるよ」
「な、なんだ、それなら安心」
なんだぁ、分身十体程度なら魔力の消費で事足りるのか――。
ふむ、そうなると、問題は十体以上、出現させると〝術者自身が消えてしまう〟という副作用が出るワケだな。
「く、何をゴチャゴチャと! 行け、分身共、ソイツらを皆殺しにするんだァァァ~~~!」
「そうはさせるかよ! よし、今度は俺が相手になってやる……魔術ガード……<爆裂の赤い石>展開だ!」
「ちょ、名前からして爆発系の……や、やめろ! わらわの家を壊す気か⁉」
「ああ、それなら大丈夫っつうか気にすんな☆」
「馬鹿、気にするに決まっている! ば、場所を考えろ、キョウ!」
「だからぁ、気にすんなって……ん、そういえば、何故、バニーガールの格好をした人間の女の姿に変身しているんだ?」
「こ、これはだな……趣味だ!」
「えええ、趣味だったんですか、ウミコ様ァァァ~~~!」
「まあ、とにかく、今から使う魔術カードは、この屋敷のすぐ側にあるトレカ屋の〝アイツ〟の自信らしいぞ。で、〝ああいう〟モノを意識してつくったカードらしい。ま、大丈夫だろう、うんうん……」
さて、骸骨やら痩せこけたモノとか、様々な様相のヨーヘインの分身供が一斉に襲いかかってくる。
「ま、そんなワケだから、俺の後ろに引っ込んでいろ。ああ、ニャーサーもだ」
え、名前からして周囲にまで被害が出そうな魔術ガードを使うんだろうって⁉
ハハハ、それには及ばんさ、心配無用だ。
さっきも言っただろう? つくった奴曰く、〝ああいう〟モノを意識し、調整してあるモノだって――。
「数で勝る――そう思ったら間違いだ!」
「ほ、ほざけェェェ~~~!」
(仲間を皆、俺の背後に下がらせて……よし、今だっ!)
ヨーヘイン本体を含めた五十体の分身が一斉に襲いかかる!
が、ウミコの屋敷は広いとはいえ、五十体も狐が――ヨーヘイン本体+分身五十体が一度に行動するのには、少しばかり狭かったようだ。
当然、行動に制限が出てしまい動きが――とにかく、俺は魔術カード〈爆裂の赤い石〉を発動させる。
「あ、赤い光が広がっていく!」
「う、うう、目を開けていられないほどの光量だ!」
轟ッ――と、〈爆裂の赤い石〉から目を開けていられないほどの強烈な真っ赤な光が吹き出す!
うう、まぶしい……な、何もかも赤く染っていく――。
オマケに熱量が……ま、まるでサウナに入っているかのようだ!




