EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その18
「むう、下が騒がしいな」
「ハハハ、多分、わらわの仲間が助けにやって来たんだろう!」
「な、何ィィ! は、そんな下手なジョークが通じると思っているのか、クソ兎がァァァ~~~!」
はーい、下手なジョークじゃなくてホントのことさ~。
というか、既に二階へあがろうとしていたりして――。
「さて、正義の味方を気取るアホが本当にやって来たとしても、俺の仲間に殺られていることだろう。何せ、兎天原西方の強国ニャメロットの重鎮――円卓の騎士アグラニャインの元部下だった経歴を持つ死霊使いのズフォックというモノがいるからな」
「死霊使い? ああ、わらわの仲間の中にもいるぞ。まあ、使い魔はゾンビ系ばかりの半人前だが……」
「む、むう、だからなんだ? フン、とにかく、仲間の助けなど来ない……貴様らは大人しくしているんだ! ニャーサーを捕らえることができる、その時まで――」
「ニャーサー? アンタ達は、ソイツの身柄と引き換えにボスとやらの解放を求めていたんだったな」
「ああ、そうだ! ソイツを〝とある御方〟に引き出せば、俺達のボスを解放なさってくれるだァァァ~~~!」
「おい、その〝とある御方〟とは誰だ!」
「ちょ、ニャーサー! 先行するな!」
シャアアアッ――と、ニャーサーが先行するカタチで二階へ駆けあがる。
おいおい、グランベリー盗賊団は、お前の狙っているんだ。
ここは慎重に行動しなくちゃ不味いだろう!
「ニャーサー……だと⁉」
「しまった! ついつい口を滑らせてしまった!」
「まさか、その白い猫が……フフフ、あり得んな。ニャーサーとやらは、髭面で熊のような大男だ。それにウワサじゃ、どんな呪いも跳ね退けるエクスニャリバーとかいう聖剣を所持しているから、この俺様のように兎天原東方で蔓延する獣化の呪いを受け付けているワケがない!」
「…………」
へえ、どんな呪いも跳ね退ける聖剣エクスニャリバーねぇ。
が、そんなモノを所持しているクセに、兎天原東方で蔓延する獣化の呪いを受けてしまい真っ白な猫と化してしまったニャーサーって一体……。
「そんな凄い武器を持っているのか!」
「でも、猫になってしまったのは何故っすか?」
「そ、それは……」
「あ、わかったわ。落としたんでしょ?」
「む、むうっ……」
「ビンゴかよ!」
え、落とした?
どんな呪いも跳ね除けるというトンでもない代物である聖剣エクスニャリバーを落とした…だと…⁉
あちゃー……だから現在も消えることなく持続中である兎天原南方、そして東方全域を覆い尽すように古代王ハビルフが蔓延させた獣化の呪いを防ぐことができずニャーサーは、他の連中と同様、真っ白な猫になっちまったワケだな。
「ちょ、どこに落としたんだよ!」
「う、うむ、それがわかれば苦労はせん……」
ハ、ハハハ、確かになぁ、どこに落としたかわかれば苦労なんてしないし、その前に猫の姿にならずに済んでいる筈だ。
「誰かに拾われていたら大変っすね。例えば、悪用を考える輩にとか――」
「それに関しては大丈夫だ。アレは余以外には使えん代物だ。故に、武器として効果もゴブリンも倒せぬほどのなまくらと化す」
「ゴブリンかぁ、アレも倒せないんじゃ武器以前の問題だな」
そのゴブリンとは、主に兎天原東方の各地に残る人跡未踏に樹海等に生息するポピュラーの人間型の怪物だ。
で、奴らの姿は、全身が緑色の原始人といった感じだろうか?
ちなみに、あまり強くないので、そこそこ実力がある冒険者ならば容易に倒せてしまうくらいである。
タダ、あの怪物は集団で出没するのが厄介なところかなぁ……。
「エフェポスの村の誰かが拾っているかもね。後で探してみよう」
「沙羅あたりが拾っていればいいっすね」
「おい、貴様らっ! 俺は無視するんじゃねぇ!」
「あ、ああ、いるのを忘れていたかも……テヘ☆」
「テ……テヘ☆ じゃねェェェ~~~! このグランベリー盗賊団副団長ヨーヘイン様を無視するたぁ、イイ度胸じゃないか!」
ああ、ニャーサーが落っことしたという聖剣エクスニャリバーのことが気になってコイツのことを忘れていた。
アハハハ、俺としたことが☆
「ほう、ヨーヘインって名前なのか、お前」
「そう、俺はヨーヘイン。グランベリー盗賊団副団長にして最強の盗賊よ!」
「最強の盗賊ねぇ……聞いてあきれるのう」
「本当ですね。ウミコ様!」
「う、うお、貴様ら……荒縄を……って、おい! 人間に変身した…だと…⁉」
「人化の法だ。ま、使えるのは、わらわとウクヨミくらいじゃがのう」
そうそう、ウミコとウクヨミは人間の姿に変身できる術――人化の法を使える数少ない存在である。
まったく、グランベリー盗賊団の連中に人質に取られる前に人間に変身しときゃ良かったのに――。




