EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その16
ボクは幽霊じゃなくて悪魔だ。
と、自称するモノ――メフィストには、実体がないし、オマケに性別も不詳である。
性別が不詳なこともかく、悪魔――いや、幽霊と言った方が正しいのかもしれない。
その前に、ソイツは幽霊のクセに超がつくほどの甘党である。
例えば、樽の中に並々に満たされた蜂蜜やメイプルシロップを飲み尽くしてしまうくらいだしな!
飲み食いする時だけ実体化するのか、コイツ……。
とまあ、そんなモノに憑かれているんだよなぁ……。
とりあえず、悪霊じゃないだけマシかな……かな?
さて。
「あの狐が持っている縦笛を奪い取るんだ!」
「え、それだけでいいの? つーか、魔術カードを使えばいいじゃん」
「そうしたいのも山々だ! だが、魔力の充電が終わらんのだーっ!」
「ニャハ、なるほど、それでボクを呼び出したんだね、キョウ?」
俺専用の魔術カードデッキだが、一度、使うとしばらくの間、使えなくなってしまう難点があるワケだ。
く、さっきのグランベリー盗賊団団員のように幻覚を見せてやろうかと思ったんだけどなぁ……。
「ワハハハ、いつまでも結界の中だから大丈夫だって思うなよ! 俺は下僕共を無限に呼び寄せることができるんだ!」
く、ズフォックが縦笛をピューヒョロリンと奏でる度に、奴の周囲に禍々しい怪光を眼窩から放つ頭蓋骨――悪霊共が、これでもかってくらい大量に出現する。
本当に悪霊を無限に呼び寄せることができるのかもしれんなぁ……こりゃ厄介だ。
「こりゃ、厄介だね。さて、ボクに任せてよ……へーんーしーん!」
「む、不定形な姿に変身したな。で、どうするんだ?」
ドンッ――と、俺の姿と瓜二つの姿に変身していたメフィストが、次の瞬間、別のモノに変化する……桃色の霧……雲⁉
とにかく、空中を漂う不定形なモノにメフィストは変身するのだった。
「な、なんだ、コイツ! 下僕共、雲みたいな霧のようなワケのわからん不定形のバケモノを食らってしまえ!」
「ひっでぇな、バケモノはお前だろう? こんな禍々しい死霊共を操っているんだし!」
「う、うーむ、同じ死霊使いなワケだし、俺もバケモノなんだろうか……複雑な気分だ……」
死霊使いをバケモノと一緒にすんな!
ま、まあ、ゾンビやスケルトンといった死体系の不死者の親玉ではあるが――。
と、それはともかく、ズフォックの下僕である数体の悪霊が、桃色の雲とか霧といった空中を漂う不定形なモノと化したメフィストに襲いかかる!
「ハハハ、無駄無駄無駄ァァァ~~~!」
「ちょ、無駄って言いながら食べられているじゃん!」
ム、ムムムッ……じ、実体を持たないモノ――霊体同士なら〝食べる〟ことができるのか⁉
メフィストに襲いかかる数体の悪霊が、そんな雲や霧のような空中を漂う不定形のモノと化した筈のメフィストをバクバクと食べ始める!
「あ、ああ、メフィストが……食べられてしまった!」
「ちょ、どうするだよ!」
「心配無用さ。ボクなら無事さ!」
「う、うお、悪霊がピンク色に変わっていく!」
え、無事? 不定形な状態とはいえ、間違いなく食べられたような……。
さて、そんなメフィストを食べてしまったせいなのか?
悪霊の禍々しい冒涜的な姿がピンク色の染まり始める。
わお、奴らの目玉のない眼窩で輝く赤い禍々しい光が、次の瞬間、ハート形の光に変化したぞ。
「な、何が起きたんだァァァ~~~!」
「んじゃ、説明しよう。駄狐、お前の下僕共は、このボクを食べたことで、そんなボクと化したのさ」
「そんなことより、どこにいるんだ?」
「ああ、ボクならここだよ、ここ……」
「あ、ボクはここだってば!」
「ちょ、ここだってば!」
「おおう、予想以上に〝ボク〟が増えてしまったようだ☆」
むう、メフィストが増えた?
アイツを食べたことで悪霊が、新たなメフィストとして新生したってこと⁉
「下僕共! 俺の言うことを聞け……奴らに憑依しろ!」
「ハハハ、無駄さ。今のコイツらは、み~んなボクと化したからね」
「ま、そういうこと……では、やっちゃう?」
「うんうん、そうだね。早速……でやーっ!」
「う、うおおおおー!」
新たなメフィストとして新生した複数体の悪霊が、一斉にズフォックに襲いかかる――が、手応えがまるでない。
野球チームを組める九体は間違いなくいる悪霊――訂正、メフィストA、B、C、D、E、F、G、H、I……略してメフィストナインの攻撃が、スルスルとズフォックの身体をすり抜けていく。




