EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その11
俺、兄貴、ヤス、それにイシュタルとニャーサーは、現在、人質に取られている状態にあるウミコが所有する屋敷のひとつの裏手に回り込む。
と、そんな俺達と平行するカタチで、先にウミコの屋敷の裏手に回り込んだ大フレイヤと小フレイヤ、オマケに子熊のアルテミスはというと――。
「おお、手薄だな。裏口なは誰もいねぇぞ」
「あ、でも、油断しちゃ駄目よ! 悪党はゴキブリのように一匹いれば百匹はいるって言うし……」
「その例えば、大袈裟じゃないか? まあいい、私が先頭に屋敷の中に入る!」
「わ、わあーっ! そんなに勢いよく開けちゃダメじゃん!」
「私は細かいことが大嫌いなんだ!」
「ま、まあいい、入ろうぜ」
ドガガッ――と、アルテミスがウミコの屋敷の裏手にあるドアに体当たりをして強引に開けてしまうのだった。
細かいことが大嫌い……ま、まあ、わからんでもないけど、ここは慎重に物事を運ばねばっ!
とまあ、そんなところなんだけどなぁ……。
「おいおい、誰もいねぇぞ!」
「多分、二階にいるんだと思う。んで、私達が入り込んだことに気づいていないみたい」
「ハハハ、二階にいるとはいえ、あんなデカい音を立てたのに、何も気づかんとはな……ん、あの箱が動いているぞ!」
「荒縄でグルグル巻きにされているわね」
偶然なのか、それとも単に気づかなかっただけなのか⁉
ウミコの屋敷内に入り込んだ大フレイヤ達の存在に、グランベリー盗賊団の誰もが気づくことはなくシーンと静まり返っている。
ああ、奴らは二階にいるから気づかなかったのか――ウミコの屋敷は、オンボロながらも広く、そして二階建ての建物だしね。
で、どうやら一階は物置小屋として利用されているっぽいぞ。
広い部屋のあちらこちらに、何が入っているのかわからない木箱が大量に見受けられる辺りから、そう予想してみたワケだ。
さて、大フレイヤ達は、ガタガタと動く木箱を発見する――ん、荒縄でぐるぐる巻きにされているぞ、この箱⁉
『ここから出せガウーッ!』
「あ、声が……木箱の中に誰かいる⁉」
「よし、あの木箱を縛っている荒縄を解いてみよう」
「そ、そうだな。ウミコとかウクヨミの可能性があるし……って、思い立ったら即、行動かよ!」
「うむ、私は細かいこと大嫌いだからな……う、うお、白い子熊が飛び出してきた!」
「プ、プハーッ! 息苦しかったガウ!」
「ん、北極熊の子供……サキだっけ?」
「そうだガウ! 変な狐共に、ここに閉じ込められたガウー! アイツら、絶対に許さないガウーッ!」
細かいことが大嫌いなアルテミスは、バリバリと動く木箱を縛る荒縄を解く……いや、引き千切るのだった。
と、その刹那、中身が――真っ白な子熊が飛び出してくる。
確か、サキって名前だったな――で、俺と同じ異世界からやって来た存在だった気がする。
『おい、今、下で物音が聞こえたぞ!』
「今の声は……隠れろ、みんな!」
間違いなくサキが勢いよく木箱の外に飛び出した時に生じた音が原因だろう。
ウミコとウクヨミを人質に二階に立てこもっているグランベリー盗賊団の団員のひとりが、ドカドカと大きな音を立てながら、一階に降りてくるのだった。
「クンクン……この獣臭は、あの熊公か! アイツ、箱ン中から逃げ出したな!」
「おい、どうした? ん、あの熊公が逃げ出したって……つーか香水のイイ香りがしないか?」
「ああ、この匂いは間違いねぇ。熊公の獣臭に混じるイイ香り……人間が体臭を消すのに使う香水の香りだ!」
「もしかすると、あの熊公を箱ン中から逃がしたのは人間⁉」
もうひとりのグランベリー盗賊団の団員がドカドカと大きな足音を立てながら、二階から駆け降りてくる。
う、熊公――サキが荒縄で縛られた木箱の中から抜け出したことを嗅覚で勘付いたっぽいぞ。
ついでに、大フレイヤか小フレイヤのどちらかが、その身に降りかけたフローラルな香水の香りも嗅ぎつけるのだった。
(ちょ、香水なんかつけんな!)
(それはアンタでしょう!)
(おい、くだらないケンカをするな……うお、こっちに来たぞ!)
む、ふたりのグランベリー盗賊団の団員は、クンクンと鼻をひくつかせながら、大フレイヤ達が身を潜める木箱の近くまでやって来る――見つかるのも時間の問題か⁉




