EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その8
「あの女に邪心はなかった。まあ、そういうことだろう?」
「邪心がない…だと…⁉」
「ああ、だから市場に施された憤怒に反応し、対象物を骨抜きにする罠が発動しなかったんだと、私は推測する」
「ふえええ、邪な心を持たない人間がいるだなんて信じられないっす!」
ム、ムムムッ……邪心がない人間だって⁉
そんな人間がいたら聖人とか聖女って呼ばれていることだろう。
あのマルタって女は、まさにその聖人、聖女なのかもしれないなぁ。
エフェポスの村の市場は、特殊能力を無力化させるパワースポットであると同時に、あそこに訪れるモノの憤怒に反応し、骨抜きにしてしまう罠も仕掛けられているにも関わらずあの女には効果がなかったワケだし――。
「その話はマジか! 西側の人間にしては珍しいタイプだな。あの辺に住んでいる人間は、男女に問わず好戦的な奴が多くてなぁ。常に戦争のことばかり考えている連中が多いんだ」
「ふええ、野蛮っすね!」
「おい、他国はともかく、余が治めていた国――ニャメロットを一緒にしてもらっては困る!」
「ニャメロット? ああ、その国に関して息子に王位を簒奪された間抜けな王様のウワサ話を聞いたことがあるけど、まさかアンタか?」
「ぐ、ぐぬぬぬっ……図星だ、言い返せない……」
「ハハハ、本当のことだったのかよ! こりゃ、驚きだぜ!」
と、俺達の話に割り込みオマケにニャーサーをからかいながら、魚肉ハンバーグにかぶりつく美女の名前はフレイヤ――大フレイヤとも呼ばれる場合がある〝三人〟の同じフレイヤの名を持つ女のひとりだ。
エフェポスに住む数少ない獣化していない人間のひとりであり、歌姫として兎天原の各地を巡業しているからなのかは知らないけど、常にウエディングドレスを連想させる純白のドレスに身を包んでいる。
で、スタイル抜群の美女ではあるが、中身はガサツで下品、オマケに口が悪いし、喧嘩っ早いところが珠の傷である。
それはともかく、俺達はエフェポスの村の中にある数少ない肉料理の専門店――とはいえ、魚肉料理が中心のそんな店にやって来ている。
ちなみに、店名はビストロクロウサギ――だったかな?
「そういや最近、西側からの移住者が増えているらしいぜ」
「それは本当なのか⁉ うむー、実に興味深い……西側で何かあったかもな」
「で、移住者の大半が人間だって言っているが、どこからどう見ても獣なんだよなぁ」
ふむ、エフェポスの村に兎天原の西側からやって来た移住者が増えているようだ。
兎天原の西側の人間は、男女に問わず好戦的であり、常に戦争のことを考えている連中が多いってフレイヤが言っていたし、それ絡みでエフェポスの村がある兎天原の東方に逃げてきたモノも多い筈だ。
「しかし、何も知らずに兎天原の東方に来る奴が多いな。冒険者も含めて――ま、変化後に〝得をする〟場合もあるけど」
「まあ、何はともあれ、一度、調べさせてみるとしよう。なんだかんだと、西側の情勢を知りたかったし――」
素顔をガスマスクの隠す怪人ことイシュタルは、実権を先王である父親が握ってはいるが、一応はマーテル王国の最高国家元首である国王なワケだ。
故に、気になった当然だろうなぁ、兎天原の西側の情勢が――。
「あ、大フレイヤ! や、やっぱり、ここにいたのね。あ、キョウもいる。そんなワケで丁度いいわ……助けて!」
「ん、小フレイヤ! 助けてだって?」
「小フレイヤ? そっちの女に名前も確かフレイヤ……容姿が似ているし、お前らは母娘か?」
「お、おいおい、猫の王様よぉ! この俺の姿を見て、十代後半の娘がいる年齢に見えるのかぁ!」
「むう、こっちこそ、こんなガサツな巨乳BBAが母親であってたまるかっつうの! まあ、血縁関係はあるんだけどねぇ」
「う、BBAだと……私はまだ二十二歳だ!」
「え、知らなかった、そんなの……」
「おい、それはともかく、何かあったのか?」
「う、うん、『ニャーサーを連れて来い! それまでコイツらは人質だァァァ~~~!』って感じで、ウミコの屋敷に不法侵入してきた物騒な連中が、ウミコやウクヨミを人質にして立てこもってるのよ!」
むう、学生服って感じの衣装に身を包む小柄な金髪碧眼の美少女が、慌ただしく俺達がいるビストロクロウサギに駆け込んでくる――フレイヤという同じ名前を持つ女のひとりだ。
ああ、こっちは通称、小フレイヤと呼ばれている。
「余を連れて来い…だと…⁉」
「ウミコやウクヨミは、エフェポスの村の古老だ。なるほど、刺客にとってニャーサーを早々と見つけるなら手っ取り早い手段だな」
「く、外道! とにかく、ウミコの屋敷へ行ってみようぜ!」
と、そんな小フレイヤは、ニャーサーを連れて来い――と、要求する何者かがエフェポスの村の古老のひとりであるウミコやウクヨミを人質を取って立てこもっているので、それを伝えるのと同時に助けを求めて、ここへやって来たようだ。




