EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その6
ケモニア大陸のど真ん中にある超広大な盆地こと兎天原の東方及び南方を覆う獣化の呪いの結界の影響を受けない方法を知りたいって?
そうだなぁ、ありていに言うなら、己の魔力次第かな……かな?
まあ、しかし、人間は魔力は低い――とにかく低い!
故に、獣化の呪いの影響を受けないモノがいるなら、それは稀な事例である。
え、お前がその稀な症例だって?
うーん、まさにその通りだな☆
アハハ、俺の魔力は魔族とか神族、それにエルフ並みなのかもしれないな!
だが、猛獣系の住人もエファポスの村には、そこそこ住んでいるんだよなぁ。
例えば、村の暴れん坊であるが、その一方で実は小心者である虎のボリスとか――。
おっと、なんだかんだと、ナメちゃいけないよな。
アオイは外からやって来た異邦人だ。
見慣れた猛獣系の住人と一緒にしちゃいけないと思うしね。
「おい、罠を仕掛けるんだ、ヤス!」
「罠っつうかスイカとかメロンならあるっすよ、兄貴!」
「よっしゃ、それをぶつけるんだァァァ~~~!」
「つーか、アイツを〝あの場所〟に追い込もうぜ。なんとかなる筈さ」
うーむ、面倒くさい奴は無力化させて黙らせりゃいいか――とばかりに俺は、アオイを〝とある場所〟へと追い込もうと目論むのだった。
それはエフェポスの村の中にある最大最強の罠が仕掛けられた場所と言っても間違いない場所だろう。
で、あそこへ行けば〝魔術〟を使えなくなってしまうし、俺の使い魔のゾンビではあるが大事な友人でもあるフィンネアやメリッサなんかは、タダの物言わぬ死体に戻ってしまうので連れて行けないんだよなぁ……。
「兄貴、ヤス、走るのに自信はあるよな?」
「おう、勿論だ! 兎をナメんなよ!」
「俺は考古学者っす! 古代遺跡を守る守護者みたいな奴から逃げるのには、ある意味で慣れてるっす!」
「ちょ、ハードだな、ヤス!」
「兄貴、忘れたっすかぁ、ハビルフの墓で酷い目に遭ったことを……」
「おい、無駄口はそこまでだぜ。捕まっちまったら元も子もないしな」
むう、流石は兎、足の速さに自信があるせいかは知らんが、兄貴とヤスは喋りっぱなしだ。
その一方で俺はヘトヘトだ。
ふう、適度な運動をしておくべきだったなぁ……と、何気に後悔している。
「さ、そろそろ到着するぞ。お、イシュタルがいる」
「しかし意外な場所っすよね。まさか、ここが〝特殊能力無力化地帯〟だなんて――」
む、猛ダッシュで〝とある場所〟へと向かう俺の視線の先に、ガスマスクで素顔を隠す怪人の姿が――イシュタルだ。
こっそりと俺達の後について来たんだろう。
んで、先回りを――と、そんなイシュタルがいる場所こそ俺達が狼女ことアオイを追い込むべく向かっている場所である特殊能力を無力化する地帯だ。
しかし、そんな場所が、まさかエフェポスの村の市場だなんて意外だとは思わないか?
「お、キョウ、それにハニエルとヤスも一緒じゃん」
「ム、ムムムッ! 久々に本名で呼ばれたぜ」
「ハハハ、兄貴の本名って可愛いっすね」
「そ、そうか? 照れるなぁ……って、そんなことを言っている場合じゃねぇ!」
「ん、どうした? 何かしらのトラブルに巻き込まれたのか、おい?」
「ま、まあな……う、来やがった!」
エフェポスの市場は、すべてというワケではないが、ほぼ露店商よって構成されている。
で、朝一で収穫された野菜類や果物、古代遺跡で発見された出土品、自作の魔術道具や武器防具などなどを持ち込んだ露店商の姿が、数多、見受けられる。
ああ、当然、知り合いの露天商の姿も見受けられる。
例えば、子熊のアルテミスとか――おっと、そんなことより、特殊能力を無力化する地帯である市場に狼女……いやいや、アオイが唸り声を張りあげながら突撃してくるのだった。
「見つけたぞ、テメェら! さあ、覚悟しやが?……ひ、びぎぃ!」
「おお、狼女の姿から元のガングロギャルの姿に戻ったぞ!」
「少しだけフィールド効果を調節してみた。故に、一瞬で獣化が解けたというワケだ」
「ブックス、サンキュー! しかし、市場に施された特殊能力の効果を弄れるなんて、流石は魔道書――いや、俺の相棒たぜ!」
ドンッ――と、一瞬でアオイの姿が毛むくじゃらの狼女の姿から、華奢なガングロギャルといった人間の姿に戻るのだった。
獣化が強制的に解除されたって感じだな。
さて、俺の側には、意思を持ち、オマケに空を飛ぶ一冊の本――相棒のブックスがいる。
表紙にダンディーなヒゲのおじいさんの顔がついている不気味なところが珠の傷ではあるが、なんだかんだと、コイツが裏工作とばかりに、市場に施された特殊能力の無力化するフィールド効果を弄くり、少しだけ強化したようだ。




