EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その5
「あたしの足の速さをナメんなよ、オラァァァ~~~!」
「わお、人間のクセに兎の俺に追いつく勢いだ!」
「だけど、その足の速さが命取りっす!」」
「ワハハハ、そういうワケだ! 足許を見ろーっ!」
エフェポスの村は住み慣れた村だ。
どこに〝何が〟あるのか、それは把握済みである。
オマケにちょっとした罠も仕掛けてある!
故に、俺、兄貴、ヤスを追いかけてくるってことは――自殺行為だったりするんだな!
「バ、バナナの皮⁉ う、うきゃあああっ!」
俺と兄貴、それにヤスは、追跡者――アオイから逃げつつ無数のバナナの皮を撒き散らす。
古典的な罠だけど、意外と効果があるってもんよ!
とまあ、そんなワケで俺達が撒き散らしたバナナの皮を踏んづけたアオイは、仰向けの状態で豪快に転倒するのだった。
「この野郎! いつの間にバナナの皮なんて……ちょ、バナナを食べながら逃げんな!」
ハハハ、なんだかんだと、俺達はバナナを食べながら逃げていたワケだ。
バナナは果実を食べるだけじゃない〝皮〟も有効活用できる果物だからね。
さて、仰向けの状態で豪快に転倒したアオイだけど、三秒もかからないうちに立ちあがり、再び俺達を追いかけてくるのだった!
「兄貴、ちともったいないけど、アレを投げつけるっす!」
「おう、人畜無害なモノだが、アレは当たったら痛ぇぞ!」
「うっせぇ、このウサ公! う、うぎゃあっ!」
「ちょ、それは……ドリアン! う、パカーンって割れて強烈な臭いがっ……おえっ!」
「く、臭ぇ、痛ぇ! でも、甘い……そして美味い! って、あたしは何を言ってんだー!」
ヤスの奴、どこのあんなモノを――とばかりに、トゲトゲの果実をアオイに向かって投擲する……お、顔面にクリーンヒット!
ちょ、そんなトゲトゲの果実はドリアンじゃないか!
アレは美味いけど、なんとも言えない強烈な悪臭を放つ果実なんだよなぁ……。
つーか、どこが人畜無害なんだよ、兄貴!
意外と元気そうだが、アオイの額からは血が……む、むう、ドリアンは凶器だなぁ!
「アタタタァ……ひ、額から血が……テメェら、もう許さねぇぞ! 兎天原の東方に訪れたことで会得した秘技を使ったぶっ殺す!」
額から流血しながらもドリアンの果肉をガツガツと食べるアオイだが、なんだかんだとキレる……うーん、キレても当然だよなぁ。
と、そんなアオイが兎天原の東方へ訪れたことで会得した秘技を使うと言っているぞ……嫌な予感がしてきたぜ。
「ギギギギッ……ウガアアアッ……」
「おい、なんか苦しんでいるぞ。猛獣みたいな唸り声を張りあげているしな、アイツ」
「あ、ああ、確かに……って、何が起きるだ⁉」
「きっと秘技ってヤツは変身系のモノだと思うっす!」
「変身系の秘技ねぇ……うお、見ろ! あのガングロギャルの華奢な身体が全体的にビクンビクンと脈動している! ぼ、膨張も始めたぞ!」
「や、やっぱり変身系かも⁉」
「つーか、顔が犬みたいな形状に変わっていく!」
アオイが兎天原の東方に訪れたことで会得した秘技ってヤツは変身系なのか⁉
と、そんなアオイの華奢な身体がビクンビクンと全体的に脈動し、オマケにボゴゴゴと上半身が膨張し始めている!
更に説明すると、彼女の顔が――鼻を含めた上顎、そして下顎が伸びる!
まるで狐とか狼のように――。
わお、今度は両手、両足に鋭い鉤状の爪がっ……おお、真っ黒な体毛が彼女の全身を多い尽くす――獣化完了ってか、おい!
「秘技ウルーヴヘジン! 見た目が醜くなっちまうのが珠の傷だが、嘘吐き野郎のテメェらを仕置きするためだ……覚悟しろよ、ゴルァ!」
「うーん、なんだかんだと、ボリスとかウチの村の暴れん坊を見ているからなのかな? お前を見ても別に怖いって思わないんだが……」
「な、なんだと、このウサ公!」
「あ、ボリスっていうのは虎っす。んで、アイツに殺された人間が何人もいたような……」
「な、なんだか知らんが、あたしを馬鹿にしてんのか、お前らっ……ウガアアアッ!」
「ば、馬鹿、挑発してどうするんだよ。とにかく、逃げるぞー!」
まったく、兄貴の奴、怖くないとか挑発してどうすんの!
その前に、あのボリスと一緒にしちゃいけないと思う。
うーん、とにかく、狼女と化したアオイが〝タダの狼女〟じゃない特別な存在だった時のことなどを考えて、ここは逃げた方は得策だな!




