EP14 ニャーサー王と円卓の騎士 その1
「う、うおおおっ! これは……キャットフードではないかァァァ~~~!」
男は怒った。
差し出された食べ物がキャットフードだったワケで――。
だが、男の姿はどこからどう見ても真っ白な猫である。
ああ、頭に王冠、それに真っ赤なマントを羽織ってはいるが、誰がどう見たって前述した通り、真っ白な猫である。
「ま、不味かったですか? それは兎天原の東方に住むネコ科動物達に大人気のキャットファンタジー社が販売している人気のキャットフードを材料に使った料理なんですが不評でしたか……」
「おい、シェフ! よ、余は人間だぞ! それなのにキャットフード入りの料理を出すとか何様のつもりだ! 故に、余は〝人間〟の食べ物を所望する!」
「えええ、人間⁉ どこからどう見ても真っ白な猫じゃありませんか……っと、それはともかく、人参とかピーマンの唐揚げなら……に、睨まないでくださいよ!」
「う、うう、もうそれで良い! 早くもって来い。余は空腹なのだーッ!」
「は、はあ……ったく、我儘なお客様だ……あ、何も言ってましぇーん!」
そんなキャットフードではなく人間の食べ物を所望する我儘な男――いや、真っ白な猫がいるのは、エフェポスの村にあるアオウサヒコ宿屋という宿屋の食堂である。
エフェポスの村の住人――大半が兎獣人と言っても間違いない二足歩行が可能な上に喋ることができる兎というワケで菜食主義者が多い。
そんなこんなで野菜料理が好評な食堂だったりするワケだが、当然、野菜料理以外の食べ物も提供している。
とまあ、その中にキャットフードも含まれている。
ちなみに、俺が聞いた話だと、エフェポスの村に住む〝とある猫〟の要望が採用されたんだとか――。
「ん、アイツっぽいぞ!」
「ああ、きっと、そうだ」
「つーか、ホントに王冠と真っ赤なマントを羽織っているっすね、兄貴!」
さて、俺、それに二羽の喋る兎――兄貴ことハニエルとヤスは、件の真っ白な猫がいるアオウサヒコの宿屋の食堂へと足を踏み入れるのだった。
「お、お前達、もしや余の命を狙う刺客か⁉」
「ちょ、いきなり言いがかりをつけられたんですけどっ!」
「おお、子○のようなカッコイイ声っすね、猫だけど」
「なんだぁ、そのネタは? つーか、俺達は怪しいモノじゃないぞォォォ~~~!」
お、おい、いきなり刺客扱いかよ!
――ってこたぁ、この猫ちゃんは何者かに命を狙われているということになるのか⁉
しかし、なんだかんだと、俺は初対面のモノに怪しまれても当然だなぁ。
兄貴とヤスはともかく、そんな俺の格好を一言で説明するなら魔女をイメージした黒ずくめだし――。
「本当に刺客ではないのだ?」
「刺客なんかじゃねぇよ!」
「そうっす! 勝手に決めつけるなんて酷いっす!」
「そうそう、俺達は刺客なんかじゃない。善良な村人さ☆」
「そ、そうか、一応、信じるとしよう……」
「つーか、刺客がどうとか言っているけど、何者なんだぁ?」
ふう、一応、刺客じゃないってことを信じてくれたが、真っ白な猫の蒼穹のように青い瞳には、猜疑心が彩っている。
さ、とりあえず、命を狙われる理由を訊いてみるとするか――。
何故、刺客に命を狙われているのかってことを――。
「良かろう! ならば語ろうではないか……ッと、その前に名乗らせてくれ。余の名前はニャーサー。この村の遥か西方にあるニャメロット王国からやって来たモノだ。」
「ニャメロット? 聞いたことがない国だな。つーか、兎天原を支配しているのはマーテル王国じゃね?」
「そういえば、カラスの沙羅が言ってたっす。兎天原の西方では近年、新しい国がワラワラと増えてきているって――」
「新しい国が増えてきている?」
「そうっす。沙羅曰く、マーテル王国からの独立を目指している連中が多いらしいっすよ、西方では――」
「うむ、まさにその通りだ。余は、そのひとつであるニャメロット王国の王であった。大体、一ヶ月ほど前までは――」
「んん、その物言いから想像したんだが、もしかしてクーデターが起きて国を追われたとか?」
「う、うむ……」
「その反応から見て図星と見た!」
何故、刺客に命を狙われているのかってことを語る前に、真っ白な猫はニャーサーと名乗る。
で、どうやら兎天原の西方にあるニャメロットという国の〝元〟国家元首である王のようだ。
フーン、クーデターが起きて国を追われたのか――。
故に、刺客によって命を狙われている……なるほどね、辻褄が合うかもしれないな。




