EP7 俺、家出姫と出逢います。その10
悪意を持って対処物を睨むことで、そんな対象物の呪いをかける魔眼は、今では小さな妖精のような姿にまで零落してしまった魔族とかいう連中が、まだまだ隆盛を誇っていた時代において、彼ら彼女らから原種魔女と呼ばれるモノが、〝人間〟でも使えるレベルの秘技として盗み出したモノのひとつが原典だと聞く。
んで、それが〝魔女〟の間で脈々と受け継がれ現在にいたるって感じだな。
ああ、俺の場合はブックスに記されていた方法を基づいて使用してみたワケだ。
ま、対象物を腹痛に陥らせたのは、初めて使った割には、けっこうな収穫だったかもしれない。
修行して、もっと強力な魔力を放てるようにしてみたいもんだ!
しかし、人を殺すほども魔力は要らないなぁ。
魔眼とは本来は、原種魔女は自己防衛のために覚えたって伝説があるくらいだし――。
さて。
「おい、あの男が戻ってきたぞ。フィンソスだっけ?」
「うん、フィンソスだね。ストーキングフィンというアダ名で呼ばわれていたりします。」
「ふええ、ストーカーなのか、アイツ! うーん、この世界にも当然いるのね……あ、でも、〝アレ〟じゃ何もできんだろうな。しばらくは……。」
「魔眼によって急な下痢を引き起こして、全身の水分が半分以上失った感じだしなぁ……。」
「脱水症状を起こしているね、絶対……。」
「キョウ姐さん、とりあえず、コイツを病院へ連れて行こうぜ。」
「あ、ああ!」
死なない程度とはいえ、魔眼の効果ってすげぇ!
急な下痢を引き起こさせストーキングフィンという嫌なアダ名を持つ男を脱水症状で再起不能に近い状態に追い込めたワケだし――。
「う、う、うっ……は、腹が……ボクの腹が壊れ……た。ム、ムギュウウウ……。」
ストーキングフィン、腹痛で再起不能!
ああ、彼はその後、三日間、腹痛に苦しむも運ばれたエフェポスの村の病院から無事に退院できたという。
「わあ、あのフィンソスをどうやって倒したんですの!?」
「お、リリス姫! そりゃ、俺の魔眼で急の腹痛を引き起こさせたのさ。」
「魔眼? ああ、そんなことより、私のことを公の場でリリス姫と呼ばないでもらえます! 一応、手配中の身なのでグラーニアという仮名を名乗っていますので……。」
「あ、ああ、そりゃ悪かった!」
ん、いつの間にか、俺の背後には、ガタガタと震えた状態のリリス姫の姿が見受けられる。
へえ、手配中の身ねぇ……。
そういえば、彼女を連れ戻そうと目論んでいるフィンソスのような連中がいるんだったな。
とまあ、そんな連中から逃げるために、彼女はグラーニアという仮の名前を名乗り、別人を演じているようだ。
「そういえば、あの男の子分のような連中もたくさんいるっぽいぞ。」
「さっきの痩せこけたヒゲのオッサンとか?」
「多分そうだろう。」
「というか人間を見かけたら全員、要チェックだガウ!」
「人間全員を要チェックか……。とりあえず、周りにはいないけど、気をつけることに越したことはないな。」
フィンソスのお仲間が、俺の吐いた嘘を本気で信じてしまっていた痩せこけたヒゲのオッサンのようなお人好しならいいんだが……。
だが、そうもいかないのが現実だと思う。
疑り深い奴もいれば、暴力的な集団に出る奴も……。
故に、後者に対しては魔眼を使わなくちゃ!
と、それはともかく、俺と一緒にリリス姫――いや、グラーニアをエフェポスの村じゃない場所へ連れてった方が無難かな?
「兄貴、彼女をアジトに連れ帰ろう。ここにいるよりはマシだと思う。何気に人間が多いからね。」




