EP7 俺、家出姫と出逢います。その8
「ヒャッハアアアッ! リリス姫、リリス姫、リリス姫ェェェ~~~! どこにいるだァァァ~~~! 婚約者のボクがやって来たよゥゥゥ!」
と、派手な真っ赤なギターの弦を忙しなくかき鳴らす狂人は、リリス姫の名前を連呼しながら、エフェポスの村の中を走ったり、そして踊ったりを繰り返し、周りにあるモノを蹴り倒す……な、なんだ、コイツ!
「なんだぁ、アイツは?」
「マーテル王国に住んでいる人間の貴族ではないでしょうか?」
「うむ、そうなのか、まったく……。」
そんな狂人の様子を見つめるエフェポスの村を警護する兎獣人の武人ことクロウサヒコは、首を横に振りながら溜息を吐く。
人間がよく村には来るようになったけど、〝ああいう〟輩が来るのはホントに迷惑だなぁ、と……。
「おう、そこの真っ黒な兎ちゃん。ち~と訊きたいことがあるんだが?」
と、性質の悪い輩のもとから一刻も早く離れようとするエフェポスの村人達とともに立ち去ろうとするクロウサヒコを痩せこけたヒゲの大男が呼び止める。
「ん、何か用事かな? ヒゲの人間さんよぉ!」
「お前、このヒゲを馬鹿にしちゃいないかぁ? フン、まあいい、それより、この絵をよ~く見ろォォォ~~~!」
「お、キレイな人間のメスですなぁ。」
痩せこけたヒゲの大男は、懐から小さな額縁に入った一枚の絵を取り出す――美しい女性の絵だ。
「ん、この絵の人物どこかで……ん、村外れのディアナスの樹海の側にある廃屋に住んでいるキョウさんにそっくりだぞ。」
「キョウさん?」
「ええ、最近、越してきた行かず後家の人間でね。ウチの村のトラブルメーカーのハニエルとヤス、それにゾンビと一緒に暮らしているよ。」
「な、なにィィィ~~~! それは本当か……って、わああ! ウワサをすれば影!」
「ん、俺のウワサをしなかったか、オッサン?」
さて、痩せこけたヒゲの大男を背後から驚かせるかたちで、俺――キョウは声をかける。
「これでも食らえ!」
「のわあああっ! なんだ、この液体は……に、苦ぇ!」
「それは屍鬼水だ。浴びたら最後、生きたままゾンビになる魔法の水さ!」
「なぁにィィィ! ホンゲェ、俺はゾンビになりたくねぇ!」
「痩せこけたヒゲのオッサンが逃げ出した! マ、マジで浴びたらゾンビになってしまう魔法の水なのかよ!」
「ありゃ、嘘だ。アレはただの苦味のある水さ。」
俺は痩せこけたヒゲのオッサンに対し、水風船をぶつけ、そんな嘘を吐く。
ハハハ、案の定、痩せこけたヒゲのオッサンは、俺が吐いた嘘を信じ、悲鳴を張りあけて逃げ出すのだった。
さてと、時には嘘を吐くのも必要だよね。
力の弱い女子供のような弱者が、腕っぷしで勝てない大柄な男など強者に対し、無傷で勝つには、言葉の力を効率よく利用するのが一番だと思うしね。
「お、おおおお! 誰かと思ったらリリスじゃないかァァァ~~~!」
「ふーん、あのやっかましい優男はリリス姫の元婚約者なのか……。」
「ひゃっはああああっ! リリス姫、超逢いたかっ……ぶべらっ!」
「ああ、スマンな! お前みたいな野郎を見るとぶん殴りたくなったんだ。」
むう、リリス姫の元婚約者――フィンソスが抱きつこうと飛びかかってきたので思わずぶん殴ってしまった。
自分専用カードデッキから取り出したカード――<凶拳>で強化した俺の右拳が、硬い岩石を打ち砕くドリルのようなボディブローと化し、フィントスのドテ腹に突き刺さる!




