外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。46
兎天原に於いて、神々から最初に知恵を与えられた動物は兎である――と、前述したと思うが、その続きが語られた神話が当然、存在する。
神々は三羽の兎に対し、三個の知恵の実を与える――が、そんな三羽の兎を知恵の実を食し、人間と同等か、それ以上の知恵を得たのは、実のところ二羽だけである。
もう一羽の兎は、蛇と烏に知恵の実を奪われ盗み食いされてしまうのだった。
で、知恵を得た蛇と烏は、兎から奪った知恵の実の欠片を、蛇は同じ爬虫類の仲間である鰐と亀、烏は同じ鳥類の孔雀と鷲、そして犬や猫といった哺乳類に――と、そんなカタチで兎と同様、知恵を得る獣が増え兎天原の各地に広がっていったようだ。
とまあ、そんな創造神話の話はさておき。
「では、マモンさんとの接触は、この私――シトリーちゃんに任せてください!」
「お、おう、任せた!」
さて、兎天原の北方では支配階級に属す貴族ではあるが、その一方で兎天原の東方では洞窟ペンギンを筆頭とした稀少動物の捕獲を目論む犯罪者のひとりとして手配書に名を連ねるターブス・ゴリケインが身を潜めているっぽい一際、豪奢なホテルことマモンセントラルホテルの営業主であるマモンが、丁度イイ具合に玄関のところにいるので接触を試みようと思う。
上手くいけば、協力を得られるかもしれないしね。
だが、俺達と行動を共にするダハーカ教授の宿泊先の古臭くてオンボロな老舗ホテルの営業主であるシトリーの話じゃ〝嫌な人物〟らしい。
さてさて、どんな人物なのやら――。
「あらぁ、誰かと思ったらド貧乏なシトリーさんじゃありませんか☆」
「だ、誰がド貧乏なんです! 私は贅沢三昧な生活を送るアナタと違って倹約がモットーなんです!」
「そうなのぉ? ああ、それであんなにボロボロなのね☆」
「ううう、五月蠅いです!」
「確かに五月蠅いな! 貧乏人を馬鹿にすんな!」
「ダーリン、何故、一緒になって怒っているのよ?」
「む、むう、放っておいてくれ!」
先手を打つようにマモンは、ニタニタと笑いながら、シトリーに対し、嫌味な言葉を――。
むう、貧乏人を馬鹿にしているのか、お前!
シトリーはともかく、本来いるべき世界でも、こっちに世界でも俺は貧乏人なので思わずイラッとしてしまうんだった。
「そこの柱の陰に隠れているお兄さんもシトリーさんと同じド貧乏なんですか?」
「ゲッ……隠れているのがバレたか! ああ、そうだ。俺は貧乏人さ!」
俺は身を潜めていたマモンセントラルホテルの玄関の柱の陰から飛び出し、そう言い放つ――ド貧乏って言われりゃ文句のひとつも言いたくなるしな!
「わ、人形がダーリンに反応してる!」
「う、うお、危ねぇ!」
むう、俺は再び柱の陰に身を潜める。
やれやれ、あの人形に宿っている聖なる意思は、ホントに魔族が大嫌いなんだな……。
「ところでシトリーさん。アナタのようなド貧乏な人が、私の豪華絢爛なホテルの前をうろちょろされると迷惑もいいところなんですけど!」
「ううう、またド貧乏って言った!」
「本当のことでしょう?」
「う、否定できないのが辛い! だけど、ここは我慢、我慢……マモンさん、アナタに耳寄りな情報がありますよ、ウキキキ。」
「耳寄りな情報ですって? ほう、それは何かしら?」
「アナタが運営しているホテルにいるんですよ。捕獲した場合、多額の賞金が入手できる指名手配犯が――。」
「な、なんですってー!」
捕まえた場合、多額の賞金が得られるかも――と、シトリーが言った途端、マモンの双眸に欲望が炎が燃え盛る。
「その多額の賞金が得られるという指名手配犯とは誰なのかしら……ジュルリ。」
「あ、興味が出ました? ターブス・ゴリケインってヤツです。」
「知ってる! 希少動物を魔族を使って捕獲しようと企んでいる大富豪でしょう? ウフフ、ソイツが私の運営しているホテルに滞在している……これは一攫千金のチャンスね!」
「も、もしかして捕まえる気ですか、マモンさん?」
「勿論! このホテルに魔族っぽい二人組が宿泊しているし、その部屋を差し押さえれば、きっと……。」
「ちょ、ソイツらってゴモリーとモロクだな。」
「アイツらもいるようだな、兄貴。」
「その前に手配書を持っていませんね、あの人……。」
「うむ、アレじゃターブス・ゴリケインが誰なのかわからないぞ。」
マモンはターブス・ゴリケインを捕まえる気だ。
で、先手を打つように自身が運営するマモンセントラルホテルの玄関へと駆け込むのだった。
むう、追いかけるべきか……いや、追いかけなくちゃ!
あのゴモリーとモロクもいるようだし、マモンだけ行かせるのは危険だし――。




