EP7 俺、家出姫と出逢います。その5
その女は恐れていた。
狂気的な元婚約者が、自分の目の前に現れることを……。
そんなワケで気づけば、常に物陰に身を潜め夜の戸張が降りるのを待つ臆病者となってしまった。
太陽は西の地平線の彼方に沈み闇夜と化してから、月や星々の運行に合わるかたちで活動を開始してから何年が経過したことやら……。
女はとにかく、太陽を――光を忌み嫌う行動を繰り返す。
狂気的な婚約者が、自分を執拗に追跡するのをやめるまで延々と――。
それはともかく、エフェポスの村の村の中には、何件ものホテルが立ち並んでいる宿場街のような場所があるのが意外だったりするんだよなぁ。
とはいえ、高くても二階建ての木造建築で、オマケに俺が本来いるべき世界の故郷こと日本の古代風の家屋である高床式住居だったりするワケだが……。
「おう、シモーヌ、お邪魔するぜ!」
「あらん、フレイヤさん。何か御用時ですか?」
「いや、大した用事ではないんだが……。」
フレイヤは忙しなくシモーヌの宿屋の中へと駆け込むと、派手な装うをした有閑マダムといった感じの兎獣人が、カウンターの奥から現れ彼女を出迎える。
シモーヌの宿屋の女将を務めているシモーヌだ。
あ、ちなみにシモーヌの宿屋の一泊の料金は、エフェポスの村の中にあるホテルに中では、もっとも高額だという。
で、その一番の理由は、女将でもあるシモーヌとかいう兎獣人が、元マーテル王国の国王直属の料理人――いや、料理兎であるからだろうか?
ま、とにかく、シモーヌがつくる料理は、他のホテルの料理人がつくるモノよりも美味いという評判だ。
「うーん、キョウ姐さんそっくりな人物……リリス姫は、どこのいるのかなぁ~♪」
フレイヤは嫌味な女だ。
わざとらしくリリス姫の名前を口にしちゃっているし……。
「そ、そんな人が、ここにいるワケがないじゃないですか……わあ、思わず口に出してしまった!」
「ん、今の声は!? あ、あるぇ~……一瞬、私の背後に誰かいた気がしたけど、気づけば誰もいないぞ?」
と、そんなフレイヤに対し、キッと文句を言い返す者が現れる――が、すぐに〝ソイツ〟は姿を隠してしまうのだった。
「ちょ、今のって……。」
「キョウ姐さん、声の主の姿を見たのかよ!」
「あ、ああ、見たさ! そしてビックリしたよ。何せ……俺そっくりな女だったからさ!」
ヒュー……シモーヌの宿屋へやって来て早々、見ちまったよ。
俺そっくりな女をよぉ……ま、まさか見たら死ぬって言われているドッペルゲンガー!?
いやいや、アレはリリス姫だ!
ヒュー……まさか本当に来ていたとは!
「ドドド、ドッペルゲンガァァァ~~~!」
ん、物陰から顔面蒼白な若い女が飛び出してきて、ビッと俺を指出す――リリス姫だ。
「わあ、身近で見るとマジでそっくりだな! お、ドッペルゲンガーのことをわかるのか! へえ、この世界でも通じるんだなぁ!」
「もちろんですわ! アレを見たら死期が近いと昔から言われていますわ!」
「ほ、ほう、俺が元いた世界と同じなワケね!」
「この世界? 元いた世界? さっきからワケのわからないことを……。」
「あ、ああ、気にしないくれ!」
「そ、そんなことはどうでもいい! キョウがふたりいるじゃないかァァァ~~~!」
「うわああ、ホントっす! でも、身長、それに胸の大きさが違うっすね。」
「……というか間違いない! あの女性はリリス姫です!」
え、違いがあった!?
まあ、とにかく、メリッサがそう言うんだし、物陰から飛び出してきた女は、どうやら正真正銘、本物のリリス姫のようだ。




