外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。28
一見すると、無地のTシャツと赤いチェックのミニスカートという地味な格好をした髪の長い十四、五歳くらいの小柄で愛らしい少女ではあるが、その一方で三日月のように弧を描く左右一対の角と真っ黒な翼、そして爬虫類のような鱗に覆われた尻尾を持つ異形――と、そんな容姿の竜人の少女が、俺達の目の前に現れる。
「むう、まさか貴様は竜人だったとはな……侮ったわ!」
「竜人は人間とドラゴンの混合生物です! あの小柄でか弱い身体とは裏腹に凄いパワーを秘めているのです!」
「そうなのか、メリッサ? うーむ、道理で人狼化したダハーカ教授の巨体を弾き飛ばせるワケだ!」
「ちなみに、竜人は〝人間になりたい〟と思いついた一頭のドラゴンが編み出した術――人化の法によって人間の姿に変身することに成功した〝そう思いついたドラゴン〟の子孫だって話があります。」
へえ、人間とドラゴンの混合生物ねぇ……え、あのドラゴンが存在しているのか⁉
ヒュー……さ、流石は幻想世界だな。
それはどうでもいいけど、ドラゴンの力を秘めた存在なら、人狼に変身し、三メートルを超えるような巨体を有するようになったダハーカ教授が、隣の部屋から、俺達がいる盗品倉庫の中までぶっ飛ばされたてしまった理由がわかったかも――。
「はああああ、許せねぇ! 私のお気に入りの部屋の壁に穴を開けやがって、このワン公!」
「うお、なんかトンでもなくご立腹のようだぞ! つーか、あの竜人は何者なんだよ!」
「追い剥ぎ共のボスだ。私はアイツにマシュルカの森の中で襲撃され手荷物などを奪われたのだ。」
え、少女の姿をした竜人が、俺達がいるマシュルカの森の中で暗躍する追い剥ぎ共のボスだって⁉
またまた意外な展開だなぁ……。
「あ、魔族! 夢魔の類いか……あ、わかった。私を、その魔族のエナドレで弱らせてからフルボッコにするとか、そんな復讐をするつもりだな、狼男!」
「むう、私はそこまでは……。」
「嘘を吐くな! あ、口に出せないような酷いこともする気だな? そうに違いない……違いない!」
「お、おい、何を言い出すんだ!」
「う、うわああ、恐ろしい奴! 更にトンでもない復讐を行う気だな、貴様ッ! あ、あんなことやこんなことや……お、おぞましい!」
「なあ、アイツって妄想を飛躍させる癖がありそうだな。」
「う、うん、メンヘラだね、ダーリン。」
追い剥ぎ共のボスである妄想癖がありそうだ。
なんだかんだと、ダハーカ教授が様々な方法で復讐を行ってくる――と、勝手に決めつけ、オマケに別の方向に飛躍させてしまっている。
「よし……決めた! やられる前に……殺れってヤツだ! お前達、殺し屋を皆殺しにする!」
「な、なんだってー!」
ちょ、やられる前に〝殺れ〟……だって⁉
おいおい、ついでに俺達は殺し屋じゃないぞ!
「え、俺達って殺し屋だったんすか、兄貴?」
「違うぞ、断じてっつーか、言いがかりだな!」
「うむ、まったくだ!」
ヤスとハニエルの言う通り、言いがかりも甚だしいぜ、まったく……。
しかし、妄想ってモノは飛躍しすぎると、〝被害者妄想〟にバージョンアップするモノのようだ、やれやれ……。
「むう、あの竜人は危険な思考の持ち主のようだ。」
「えー……それを言う資格はないんじゃねの、ダハーカ教授!」
「そうだ、そうだ! 私を首ちょんぱにしたクセに!」
「んんん、何か言ったかなァァァ~~~!」
「い、いや、何も……。」
ダハーカ教授、その発言は矛盾しています……う、物凄い殺気が入り混じった視線を感じるんですけど!
「さ、アレと戦えるモノは、私と一緒に――。」
「ダーリン、私達を見ているわよ……。」
「う、うむ、仕方がないなぁ……。」
「よし、私も戦おう。亀をナメるなってことを教えてやろう。」
「「ビリー!」」
なんだかんだと、追い剥ぎ共のボス――竜人の少女と戦えそうなのは、俺とポノス、それにビリーくらいだろうなぁ。
「兄貴、俺も戦うぞ! 実は魔術を使えるんだ!」
「ユウジ、俺も戦うぞー!」
「な、なんだってー! お猿魔術ってか?」
お、ユウジとトモヒロも戦うと言い出す。
それに魔獣を使える……だと⁉
「フン、多数に無勢ってヤツね。まあいいわ、たったひとりとはいえ、お前達を皆殺しにすることくらい造作もない! ああ、名乗っていなかったけど、私の名前はアスタロだ。死ぬ前に教えておいてやる!」
「アスタロ? 明日太郎ってニックネームをつけてみたわ、ダーリン。」
「明日太郎か、男の名前みたいなニックネームだな。」
「ば、馬鹿ァ! 何は明日太郎よ! ううう、もう謝っても許さないぞ!」
追い剥ぎの共のボスこと竜人の少女の名前はアスタロというそうだ。
さて、ポノスが明日太郎というニックネームをつけたせいでアスタロはキレてしまったようだ。
う、うわあ、今にも口から火炎を吹き出しそうなくらい激怒しているぞ!
「く、口から炎が漏れ出しているっすよ!」
「ドラゴンのお馴染みの技みたいなアレ……火炎吐息キター!」
「ん、炎岳じゃないです! 真っ白な光も漏れ出していますよ、明日太郎さんの口の中から……。」
「炎と光⁉ ……まさか! お前達、ここは逃げた方が無難かもしれん!」
「ダハーカ教授、どうしたんです?」
「あの竜人の娘――明日太郎だったかアスタロは光線吐息を吐くかもしれない!」
「光線吐息⁉ 某怪獣とか、某ロボットアニメを連想するぜ。」
「何はともあれ、ここから退散だ! 光線吐息は危険度がトンでもないからな!」
明日太郎――いやいや、アスタロの口から漏れ出す真っ赤な炎、それに真っ白な光も漏れ出しているワケだが、ダハーカ教授曰く、光線吐息とやらを吐き出す前触れのようだ。
と、とにかく、ダハーカ教授の言う通り、この場から立ち去った方が無難かもしれないな!
「うーむ、彼奴は先祖返りしたのか、それとも……。」
「え、どういうことです、ダハーカ教授?」
「竜人は人化の法を完成させ〝人間〟になったと同時に、ドラゴンだった頃の特技をほとんど失ってしまったという伝承があるんだ。」
「ええ、じゃあ、普通の竜人は光線はおろか炎も吐くことができないのだ!」
「あおおほい! ごんなにはわいでゅも!」
「もう遅い! どんなに騒いでも――って言っているわ。」
「ポノス、訳さんでもいい……う、うわあああッ!」
むう、アスタロの口の中から、遂に光線吐息が放射線状に放たれる!
ううう、光が……真っ白な光の奔流が広がっていく!




